音楽のTrivium-その1
文法(Grammer)
音楽における文法とは、楽典やコード理論など、まさに音を言葉に変換するためのルールのことです。
基礎的な楽典の知識と、コードの仕組みについては、作曲をしようと思うのならば、
最低限覚えておくことが望ましいです。
ですが、ここでは文法を突き詰めるのが目的ではありません。
理論になれないうちは、そもそも知らないものがわからない。自分の作りたい曲もないうちに、理論からはじめようとすると、膨大な知識の海をコンパスもなくさまようことになるので、途方に暮れてしまいます。
理論を勉強してから作曲をしようではなく、今この瞬間から作曲をします。
その方が楽しいですし、短期間で一曲完成させるというゴールが先にあることで、自分に必要な知識の欠損部分が見えてきます。そこから優先的にやっていけばよいのです。
ダイアトニックコードの知識が一通りあれば、作曲を始めるには充分です。
また、和声学の知識があると、コード進行つくりや楽曲分析に役に立ちます。それは必要に応じて身につけていきましょう。
ここでは、ダイアトニックコードの基礎部分についてまとめてみます。
ダイアトニックコードの説明や表記方法は完全には統一されておらず、書籍や本によって使用スタイルが異なったりしますので、
誰かのもとで学習を始めるときは、共有言語として共通のスタイルを使っていくのが望ましいです。
このブログで使用するダイアトニックコードのスタイルについて解説します。
・ダイアトニックコードのスタイルについて
このブログの参照するダイアトニックコード理論は
『コード作曲法』藤巻浩
この書籍に基づいています。一般的にもスタンダードなコード理論を解説していますので、この本のやり方に従えば大きく逸脱することはありません。
余裕があればこの本も確認してみてください。
さて、音楽のアルファベット、ドレミファドラシドから派生するダイアトニックコード。主に7つありますが、ここではコードの種類とファンクションを確認します。
Key=C(ハ長調)の場合
ドレミファソラシドの音階を、各音ごとに一つ飛ばしで3つ(4つ)押さえていくと、コードができます。
たとえば、ドから始めた場合、ド・ミ・ソでCコード。レからはじめた場合、レ・ミ・ファでDmコードです。
ピアノの鍵盤をドから一つおきに3つ押さえていくと、自然とハ長調のダイアトニックコードができあがります。
このようにしてコードを作っていくと、次の七つのコードができます。これがダイアトニックコード(メジャースケール)の型です(ここでは4和音で作っています)。
CM7 Dm7 Em7 FM7 G7 Am7 Bm7(-5)
Ⅰ ⅱ ⅲ Ⅳ Ⅴ ⅵ ⅶ
T SD T/D SD D T SD
です。
コードの下のローマ数字は、ダイアトニックコードの座標を示す記号として用いられます。コード自体には絶対的な機能はなく、そのキーの座標によって、他の音との関係性によって機能が定義されるので、ダイアトニックコードの説明をする時はコードネームではなくローマ数字を使います。
メジャーコードは大文字で、マイナーコードは小文字で示しています。
その下にはファンクションを記しています。
コードにはトニック(T)、サブドミナント(SD)、D(ドミナント)の3つの性質があります。
トニックは安定していて、どのコードにも進みやすい。
サブドミナントはドミナントに進みたくて、ドミナントはトニックに進みたいという性質があります。
これがファンクション(機能)です。
曲というのは、T→SD→D→TやT→D→Tという流れでできています。
この中でもっとも重要で多用されるのが、1番目のトニックC、4番目のサブドミナントF、5番目のドミナントGです。
これらを主要三和音、スリーコードと呼びます。
これら3つのコードだけで、いくつもの名曲が生まれています。最低限この3のコードだけ知っていれば、今すぐ作曲をはじめることができます。
また、ダイアトニックコードにはメジャースケールとマイナースケールがあることも、ご存知だと思います。
マイナースケールの場合、「ナチュラルマイナースケール」を基本として「ハーモニックマイナー」「メロディックマイナー」に派生します。
ダイアトニックコードに関しては、このあたりまで覚えておけば万全ですので、知識が曖昧な場合はしっかり確認しておきましょう。
コード理論というのはかなり特殊な知識なので、知ってはいても、日々作曲を実践していないと、どうしても忘れてしまいます。
作曲をするのが自然な生活になるようにして、この知識を無意識まで浸透させるようにしていきましょう。
次に、マイナースケールです。
ナチュラルマイナースケール(Key=Am)
ラシドレミファソ
Am7 Bm7(-5) CM7 Dm7 Em7 FM7 G7
ⅰ ⅱ Ⅲ ⅳ ⅴ Ⅵ Ⅶ
T SD T SD D SD D
ハーモニックマイナーの場合、ソが半音上昇し、次のように変化。
Am7→AmM7
CM7→CM7aug
Em7→E7
G7→G#dim7
さらにメロディックマイナーの場合、ファとソが半音上昇し、次のように変化。
Am7→AmM7
Bm7(-5)→Bm7
CM7→CM7aug
Dm7→D7
Em7→E7
FM7→F#m7(-5)
G7→G#m7(-5)
です。ファンクションは変わりません。
メジャースケール、マイナースケールだけでこれだけのバリエーションがあります。
これらは何も丸暗記する必要はなく、ダイアトニックコードのルールとコードの仕組みがわかっていれば、スケールから導きだせるものです。
ダイアトニックコードとコードの仕組みは数学の公式のようなものですので、一度理解してしまえばあとは一生使えます。
ぜひとも完璧にマスターしましょう。
しかし、これらの知識が曖昧であっても、ⅠとⅣとⅤさえわかれば作曲ははじめることができますので、今の時点で心配することはありません。
文法に関しては、まずはこの概念をおさえれば作曲ができます。
もちろん楽典の知識も大切な文法であることは言うまでもありません。まだ譜面に弱いという場合は、作りながら覚えていきましょう。
次に、文法に関する注意点です。
コードの知識に関しては藤巻浩さんの本を読んでおけば万全ですが、
このブログの流派ではいくつか異なるやり方もあります。
(1)コードネームの表記と呼び方
コードネームの表記と呼び方について、特にややこしいのは、
減三和音に関することです。
減三和音とその変化形のコードは、多く以下のように書かれます。
○m7(-5), ○ø, ○dim, ○dim7
この講義では
たとえば減三和音に第7音を加えたⅶのコード、Bm7(-5)は、「Bマイナーセブン・マイナスファイブ」
と呼ぶことにします。表記はBm7(-5)で統一します。
人によってはBø「Bハーフディミニッシュ」という呼び方をします。
それも呼び方のバリエーションの一つですが、ややこしくなるので、前者に統一します。
また、dim, dim7についても注意が必要です。
この講義では、減三和音を○m(-5)と表記し、「マイナー・マイナスファイブ」と呼びます。
これに減七の付加音を加えた「減七の和音」のことを「dim7」と表記し、「ディミニッシュ・セブン」と呼びます。
人によっては、付加音のない減三和音を「dim」と表記して「ディミニッシュ」と呼んだり、
減七の和音のことも同じように、単に「dim」と表記して「ディミニッシュ」と呼ぶことがあります。
これらを混同させると紛らわしいので、統一するようにしてください。
まとめると、こういうことです。
減三和音・・・Bm(-5)→「マイナー・マイナスファイブ」
減三和音+短7音・・・Bm7(-5)→「マイナーセブン・マイナスファイブ」
減三和音+減7音・・・dim7→「ディミニッシュセブン」
(もし、長・短・減・増などの「インターバル」についても曖昧な場合は、いまのところは気にしないで大丈夫です。これからやっていきましょう。)
「ハーフディミニッシュ」「ディミニッシュ」の記号、呼び方は使いません。
減三和音の他に、表記でややこしいものにオーギュメントコード・テンションコードがありますが、
これらは本当に人によって表記が様々なので、厳密に区別しません。好きな表記を使ってさい。
・オーギュメント
C7aug
CM7(#5)
CM7+
・テンションコード
G9
G7(9)
G7(♭9)
G69
Cadd9
FM7(#11)(13)
あまり見慣れないものは気にせずに、こんなのもあるんだな、くらいの認識で大丈夫です。
(2)長調のⅶのコードのファンクションについて
Key=Cの場合、Bm7(-5)です。
これは「ドミナント」として解説されていることが多いですが、わたしは「サブドミナント」と定義する流派です。
その理由は、ルートが裏関係(増4度)のコード同士は同じファンクションを持つという性質があるからです。
Bm7(-5)はサブドミナントのFと裏関係なので、サブドミナントと考えることができます。
一般的には、ⅶのコードはⅤのコードの根音省略系であり、コード構成音がVとほとんど同じだから、ドミナントであると解説されることが多いです。
しかし、「Am(ラ、ド、ミ)」と「FM7(ファ、ラ、ド、ミ)」は、
コード構成音がほぼ同じなのに、
「Am」はトニック、「FM7」はサブドミナントですよね。
コード構成音がほとんど同じだから、ファンクションも同じであるという解説は、この点と矛盾をきたしているのです。
ですので、安易に「コード構成音がほぼ同じだから、ファンクションも同じ」とは考えない方がいいです。
ⅶのコードをSDとするかDとするかは、流派による違いですので、どちらが正しいとかいうことはありません。
それぞれの流派が自分の理論を論理的に説明するために、このような説明がされているだけ、と思ってください。
最終的には、自分の好きな方を選択すればよいですが、この講座ではⅶをSDと捉えるやり方で進めていきます。
以上が文法に関する最初の確認点です。