[REGION ANALYSIS]リージョン解読
リージョンの実践的活用方法を見ていきます。まずはリージョンを使って楽曲のハーモニーを分析する方法です。
⚫︎リージョンを用いたハーモニー・コード分析
楽曲のハーモニー・コードを調べる際、リージョンを使って整理すると、楽曲全体を通したハーモニーの機能的関係がわかりやすくなります。ただコード進行パターンを調べるだけよりも、ハーモニー構造への理解が深まるでしょう。
最初にコードを特定し、分析する部分のコード進行を明らかにします。コード進行が記載されている場合は、そのまま分析をはじめます。
コード進行を分析する際、
[リージョン] : デグリー
という具合に譜面かコードの下に書いていきます。
譜例はジャズスタンダードのひとつ「Misty」です。
Key=E♭、つまり[T]=E♭-Majorです。
(手書きの場合は丸でリージョンを囲う方が楽です)
図のように、複数のリージョンに共通のコードは、考えられる所属リージョン、デグリーを縦に揃えて書きます。
このようにリージョンは、全てのコードを、特定のリージョンのダイアトニック・デグリーにあてはめることで、コード進行の特徴(4度/5度進行など)とファンクションを理解するのに役立ちます。
転調の少ない(単一リージョン内で完結している)ような進行では、単純にトニックリージョンのデグリーを当てはめるだけでよいです。
EbM7 Cm7 Fm7 Bb7
[T] : I VI II V
セカンダリードミナントなどのごく短い一時的転調などでは、トニックリージョンの下に転調先の該当リージョンとそのデグリーを記します。
EbM7 Bbm7 Eb7 AbM7
[T]:I – – IV
[SD] :- II V I
2つ以上のリージョンが同時に混在すると考えられる進行(転調を多用した進行、少し遠いリージョンへの移行、他のリージョンへの滞在が長いような進行など)では、ふさわしいと思われるリージョンとデグリー全てを縦に並べて書き、ナチュラルなダイアトニック・デグリーと、サブスティテュートによって変化したデグリー、つまり「トランスフォーメーション」したデグリーを区別します。
Abm7 Db7
[t]: IV VII
[♭M]: II V
(ナチュラル・ダイアトニック)
EbM7 Cm7 Fm7 Bb7
[T]:I VI II V
[♭M]:*VI – – – –
(*トランスフォーメーション)
たとえば、リージョン[T]に所属するコード(上2枚目のEbM7)は、リージョン[♭M]から見れば、リージョン[T]からのサブスティテュートによって変化した「トランスフォーメーション・コード」となります。上記の例では、
a.前小節からの[♭M]リージョンにおけるII-V-VIという流れにおいて、最後のVIは、ルートが共通の[T]:Iに受け渡されている
b.ここは[♭M]におけるツーファイヴー偽終止という流れにおいて、[♭M]のナチュラルなダイアトニックデグリーとしては本来マイナーコードであるVIがメジャーになっている、と考える。
c.この部分は、[♭M]への滞在から[T]へ戻る、リージョン間の接続地点
という見方をします。この、ナチュラル・ダイアトニック・デグリーが変化したコード(*VI)がトランスフォーメーションです。他リージョンからのサブスティテュートによって、現在のリージョンのデグリーが変化したものと考えるのです。トランスフォーメーションしたデグリーは、シェーンベルクの本ではデグリーに横スラッシュを入れて表記することで、ナチュラル・ダイアトニック・デグリーと区別しています。
E♭m7
[♭M] :VI
↓
E♭M7
VI
(こんな感じ)
しかし、この表記はパソコンでは非常に打ち込みにくく、またどうしても「削除スラッシュ」のように見えてしまうので、ここからの説明では使いません。代わりに、デグリーの横に*の記号をつけて表記しています。
E♭m7
[♭M]:VI
E♭M7
[♭M]:*VI
(こんな感じです)
トランスフォーメーションは、2つ以上のリージョンを同時に混在させる時、そのリージョン間でルートが共通のデグリーを用いたコードを使用している部分で、どちらかのリージョンのナチュラル・ダイアトニック・コードを優先して用いることで、一方の優先されなかったリージョンに発生します。少し説明がややこしいですが、要するに
a.転調的進行において、現在のリージョンと転調先のリージョン、どちらのコードを使うのかその時その時で選んでいく
b.そして、ルートが共通のデグリー部分は、上に乗るコードの種類を好きな方のリージョンのものにすることができる
c.このとき、一方のリージョンから見て、ルート上のコードが他方のリージョンのものであれば、そのコードは、他方のリージョンからの介入によって変化したトランスフォーメーション・コードとみなす
となります。わざわざこのような考え方をするのは、これに慣れればいちいちいろいろなリージョンを書きださなくとも、ひとつのリージョンのナチュラル・ダイアトニック・デグリーとトランスフォーメーションによって、コード進行のデグリーを明らかにすることができるからです。デグリーとルート進行がわかれば、進行の特徴とファンクションによって楽曲の機能的な流れが掴めます。そうやって機能的に分析した進行をストックすることで、単なる暗記でない応用可能なコード進行がストックされることになる、というのがリージョンを使って分析することの目的です。
最後の部分を見てみます。
Fm7へのいわゆる「セカンダリードミナント、ツーファイブ分割」というパターン。本来、マイナーコードへのツーファイブ進行は、解決先のマイナーコードをルートとするマイナースケールからコードを借りるので、IIはm7(-5)になるが、ここではm7です。ルート上のコードを比較的自由に乗せられるジャズにとっては慣習的な使い方ですが、これもリージョン的に分析してみると正確に整理できます。
Fm7を[dor]のIとみると、この部分では[T]と[dor]が混在。[T]のIIIと[dor]のIIはルートが共通、Gm7は[T]リージョンに所属する、よって[T]にとってはナチュラル・ダイアトニック・コード、[dor]にとってはIIのトランスフォーメーション(本来はGm7(-5))、となります。
リージョンを使った分析は、感覚的、慣習的に使われているコードを含めた、楽曲内のなるべく全てのコード進行を特定のリージョンのダイアトニック・デグリーに当てはめて可視化、自分で意味付けすることで、曖昧な部分を定義し、自分の技術として使えるようにするのに役立ちます。