▪️古典的和声とポピュラーミュージックにおけるコード進行の違い
古典的和声とポピュラーミュージックのコード理論では、いわゆるコード進行をつくる作法が違います。古典的和声では、ソプラノ・アルト・テナー・ベースという4声部を組み合わせて和音を組むのが基本で、ファンクションに従って和声進行のパターン(I-IV-V-Iなど)をつくったら、適切なヴォイスリーディング(各声部をなめらかにつなぐこと)によって進行させることで和声進行を作り出します。ソプラノ、つまりメロディがハーモニーと一体となっているので、メロディの動きに合わせて他の音を適切に動かす必要があります。また、デグリーのルート(1度)以外の音、3度、5度、7度の音がベースにくる「転回形」という形があり、これは主にベースをメロディックに進行させるために用いられます。どんな和声進行をつくるときも、4和音構成と的確なヴォイスリーディングが重要であり、基本のハーモニー構成を乱したり、不自然なヴォイスリーディングをしたりすることは、多くの禁則に触れる可能性あります。古典的な和声進行のイメージは、バッハのコラールを想像すればわかりやすいと思います。
対してポピュラーミュージックでは、4和音構成やヴォイスリーディングなどの制約はなく、4和音にテンションを加えても、どんなパターンのコード進行をつくってもいいという、自由度の高さがあります。メロディとコードが完全に切り離されており、メロディに合わせて他のコード構成音をどのようにか動かさなければならないといった決まりや、動かしてはならないなどの禁則はありません。クラシック曲が縦のハーモニーをきっちり組み立て、各楽器間でメロディとハーモニー、リズムを交代させたりするのに対して、ポップスでは各楽器のラインがある程度水平的に独立しており、それぞれの役割に沿った動きから逸脱しすぎないのが特徴です。
また、コードのルート以外の音がベースにくる形は、「オンコード」というポップス特有の考え方であり、古典的な「転回形」とは区別されます。転回形では、ルート以外の音がベースに来てもデグリー・ファンクションは変わらないままとされますが、ポップスのオンコードでは、ベース音がデグリー・ファンクションを決定しており、上に乗るコードは単にハーモニーのキャラクターを表現することになっています。
つまり、古典和声では、メロディ、ハーモニー、ベースは一体となって和音を作っているため、美しい和声進行をつくるために、構成音の数や声部の進行に制約がありますが、ポップスでは、メロディ、ハーモニー、ベースが独立した要素として切り離されているため、コード構成音や各音の動きは制約されないのです(もちろん音がぶつからないように注意はします)。以上の違いを押さえておくと、この先の解説がわかりやすくなると思います。