ゲーム音楽分析シリーズ・Saga Frontier編。(分析にはコードチャートテンプレートを使用するとわかりやすいです)
サガフロンティアより「碧い街」。日本風のステージ・京で流れる曲です。
日本風のステージですがそんなに和風って感じの曲ではないですね。定番のRPG的街BGMではないでしょうか。
インストですが、そのまま歌詞をつけて歌ものの曲として成り立ちそうな、ポップな曲です。つまりはいわゆる「よくあるふつうの曲」ですが、そのためおおいに作曲の参考になる、お手本のような曲です。コード使い、メロディの動きがすばらしい。
音色は、
フルート-メロディ
ベル-カウンターメロディ
アコースティックギター-コードアルペジオ
ストリングス-パッド
べース
ドラム
ですね。
BPMは90くらい。
曲の構成は、「イントロ-A-B-A-B-C」となっており、CのあとはAに戻ってAからループします。
イントロ
key=C#
C#M7 Dm7 | C#M7 BM7 | AM7 C#onG -F#m- Gsus4(9) |
Aメロ
{|C#M7-D#m7 | C#M7-BM7 | C#M7-D#m7 | C#M7-BM7 | }×2
Bメロ Key=E
AM7 | C#m7 | F#m-B | Em7 E7 |
AM7 | A#m7(-5) | D#-D#7onA | G#m7-C# | A-A#m(-5) | B-G#onB# |
C
EM7 | AM7 | EM7 | DM7 |
Key=C#に転調し、
C#M7-D#m7 | C#M7-BM7 | F#-C#m(onE)-D#m7-G# | C#M7-D#m7-E#m7-F# |→Aへ
曲のメインとなるのはA,Bです。
使われているコードが多く、転調もしているので、複雑そうに見えますが、
パターンさえ発見できれば意外と簡単に整理できます。
イントロから見ていきます。
イントロ
key=C#
C#M7 Dm7 | C#M7 BM7 | AM7 C#onG -F#m- Gsus4(9) |
ここは一時的転調の中級ワザがひとつあるので少し、詳しく解説してみます。
曲の出だしは、指弾きのアコースティックギターを再現した音でコードアルペジオのみ。
KeyはC#ですが、BM7,AM7,F#m部分は一時的転調をしていますね。さらにF#mはシンコペーションもしています。
Key=C#におけるBM7はⅦ♭M7、AM7はⅥ♭、F#mはⅳmです。これらの一時的転調は理論的にどのように説明すればよいでしょうか。
メジャーコードにおけるⅦ番目のコードのルートが半音下がったⅦ♭は、3和音ならば同主短調のⅦのコードの借用と考えることもできます。
つまり、Key=Cならば、Ⅶ♭=B♭は同主短調Cm調のⅦのコードですね。
しかし、4和音では同主短調のⅦ7はドミナント7thコードです。Cm調ならばB♭7。
例曲はC#調におけるBM7、つまりⅦ♭M7です。
これだと同主短調からのⅦのコード借用とはいえなさそうです。
では、Ⅳ度調つまりF#調のⅣのコードではないでしょうか。
確かに、F#調のⅣのコードはBM7です。
説明としてはまあこれでもよさそうな気がします。
しかし、一時的転調というのは意図があって行うものです。
Ⅳ度調から借用するというのなら、Ⅳ度調のコードとの絡み合いをもっとしたいという意図があるはずです。
Ⅳのコードはサブドミナントですから、前後のつながりを意識するなら、Ⅳ度調のドミナントやトニックとコンボで使いたいところです。
ところがBM7の前後、C#M7,AM7はⅣ度調のコードではありません。
コード進行の中に、近親調だからとはいえ、いきなり前後のつながりを考えず単独で借用和音をぶっこむというのは、ちょっと乱暴に思われます。
借用できるからといって、前後のつながりを考えずところかまわず借用しまくっても良い曲などできないでしょう。それはただの理論実験であって、作曲ではない。
ではこのBM7、長調におけるⅦ♭M7の正体は何なのか。
このブログではこう考えます。
その前提には「裏コード」の知識が必要となります。知らない人は調べてみましょう。
「裏コード」は「セカンダリードミナント」「ツーファイブ」「サブドミナントマイナー」などとならぶ代表的な一時的転調のワザです。
かんたんにいうと、裏コードというのは「増4度上にある代理可能なコード」のことです。
つまり、増4度上の音をルートとするコードは、元のコードの代用として使うことができます。
例:G7の裏→D♭7
定番のツーファイブモーション「Dm7-G7-C」を裏コードを使って「Dm7-D♭7-C」とすると、ルートが半音下降しておしゃれでカコイイ。これは作曲中級者くらいならみんなやってるおきまりのワザです。
なぜ代用できるかというと、お互いコード構成音に共通するトライトーン(三全音/増4度の響き)を含むからです。
G7「ソシレファ」は「シファ」が増4度つまりトライトーンです。
D♭7「レ♭ファラ♭シ」にも「シファ」があります。
共通音が多いコードは代理できるという性質がありますよね。Cの代理はEm、Am。Fの代理はDmなど。
トライトーンは特徴的な響きなので、これを共通音として持つコードは代理がきくわけです。
これが裏コードです。
さて、ここでⅦ♭の裏関係、つまり増4度上にあるコードを考えてください。
・・・Ⅲですね。
ここではC#調なので、ⅢはE#(F)です。
ここでもうひとつ、裏コードの性質の知識が必要。
裏コードは主にドミナント7thの代理として使われることが多いんです(G7→D♭7など)。
が、ドミナント以外でも裏コードを使う場合だってあります。
その場合、じつは、「ルートさえ裏関係ならば、コードは自由でいいじゃん」という法則があるのです。ドミナントセブンスの場合は、コードの種類を変えるとドミナントでなくってしまうのでやれないのですが、トニックの裏の場合はコードの種類を変えてもよかったりします。
法則といっておきながら「自由でいいじゃん」というのは何ともふざけてると思われますが、音楽は大前提として自由、使っていけない音などないと思うので、絶対にこうすべきとは言えないから、こういう雰囲気になることをご理解ください。
で、「自由でいいじゃん」とはいえ、よくあるのは「元のKeyとの共通音をのっけてコードをつくる」方法です。
つまり、C調の場合、Em7を裏コードにしたければ、B♭をルートにして、あとはなるべくC調の音をのっける。
すると、「シ♭」以外は共通の「B♭M7」が合うわけです。
そうです。例曲はC#調ですから、これを半音あげただけですね。つまりBM7というのはE#m7(Fm7)の裏コードと考えることができるわけです。
トニックE#mの代理と考えればいいのです。
混乱しちゃいましたか?
とりあえずボキャブラリーとして法則だけ覚えておきたい人のために、まとめておきましょう。
・裏コードはドミナント7thの代理だけでなく、トニックの代理としての裏コードもある
・トニックの代理の場合、ルートさえ裏関係ならば、上のコードは何でもよい
・じっさいは、なるべく元のKeyとの共通音でつくる
・要するに、ⅠならⅣ#、ⅲならⅦ♭、ⅵならⅢ♭をルートするコードは裏コードとして代理でき、その構成音は元keyとの共通音が多いのが望ましい(違和感が少ない)
ということです。C調なら、CM7はF#m7(-5)、Em7はB♭M7、Am7はE♭M7などが代理として使いやすいということです。
Aメロ
{|C#M7-D#m7 | C#M7-BM7 | C#M7-D#m7 | C#M7-BM7 | }×2
Aメロはイントロと同じリズムパターンで、一小節に2回コードチェンジします。
C#M7-D#m7 | C#M7-BM7
を繰り返し、メロディも基本的には最初の2小節で提示されたテーマを元に、繰り返し部分では後半をオクターブあげたり、転回したりして変化をつけているだけです。3連符などの動きが絡んでいて、とても耳に残る良いメロディですね。
Bメロ Key=E
AM7 | C#m7 | F#m-B | Em7 E7 |
AM7 | A#m7(-5) | D#-D#7onA | G#m7-C# | A-A#m(-5) | B-G#onB# |
BメロではいきなりKeyがC#からEに転調しています。
セカンダリードミナントやピボットコードなどの準備を特に行わずに突然転調している感じですね。
ポップスでは何の兆候もなく突然転調するのはよくあることです。このように短3度上にいきなり転調するのもありですね。
Aメロ最後のベルが残すメロディがBメロにまたがっているのですが、それがきちんとKey=C#とEの共通音であるところが素晴らしい。このおかげ断裂感の少ないスムーズな移行が実現しています。
具体的には、Aメロ最後の音であるベルの奏でるソ#がBメロ最初のコードAM7に突っ込んで聴こえています。AM7のM7thはソ#ですので、共通音として自然に溶け込みます。
この何の準備もなくさりげなく転調していく感じがあっさりしていていい感じなのです。
メロディとコードの動きに注目すると・・・
AM7 | C#m7 | F#m-B | Em7 E7 |
前半のこの部分でテーマメロディの「クエスチョンーアンサー」セットが提示されています。
たいては前半テーマメロディを2回繰り返すパターンが多いのですが(Aメロはそうでしたね)、
この部分では後半には少し変化がつけられています。
AM7 | A#m7(-5) | D#-D#7onA | G#m7-C# | A-A#m(-5) | B-G#onB# |
まず、AM7の次にA#m7(-5)という、半音上昇の動きがみられます。
これは経過和音、パッシングディミニッシュかな?と思われそうですが、次にくるのがD#であり、この部分はルートが半音進行していないのでそうとは言い切れなさそうです(パッシングディミニッシュはすぐ後で出てきます)。
ここは、さらに進んでG#m7を見ると判断ができます。
A#m7(-5) | D#-D#7onA | G#m7
ここですね。G#m7に対する「ツーファイブ」の動きになっています。お気づきになりましたか?
Key=G#mのⅱ-Vは、A#m7(-5)-D#7です。
間のD#はルートが5度を弾いたりして少し変化していますが、元は明らかにツーファイブであることがわかりますね。
よってこの部分はメロディもG#ハーモニックマイナースケールになっています。短調のⅤがドミナントセブンスコードになるのは、ハーモニックマイナースケールまたはメロディックマイナースケールですからね。
さらに次、
G#m7-C#
は、F#調のツーファイブになっています。メロディはC#の部分がF#ハーモニックマイナースケールです。
ですが、次に解決しているのはF#ではなくAですね。
なぜF#ではなくAに解決できるのか。
単に、Key=Eにおけるⅱ(F#)の代理としてのⅣ(A)に解決していると考えてよいと思います。
次にいきます。
A-A#m(-5) | B-G#onB# |
ここで本当に経過和音がでてきました。A#m(-5)です。
AとBを半音上昇でなめらかにつないでいます。
これは作曲者の伊藤賢治さんにとってお気に入りの方法のようで、作品の中に幾度となく見受けられます。
最後はC#調のドミナントG#onB#を経由して、Aメロに戻ります。
2ループ目はBメロの最後G#onB#はなく、Bのままで、そのままCメロに突入します。
C
EM7 | AM7 | EM7 | DM7 |
Key=C#に転調し、
C#M7-D#m7 | C#M7-BM7 | F#-C#m(onE)-D#m7-G# | C#M7-D#m7-E#m7-F# |
ここはCメロですが、サビという感じではなく、Bメロにつけたした感じです。
EM7 | AM7 | EM7 | DM7 |
この部分、よく聴くとギターのコードにソプラノペダルポイントが確認できます。3小節目のEM7まで「ミ」がペダルされている響きに注目。さりげなくワザをちりばめるのがイトケンさんです。
DM7はE調ⅲ度のトニックG#mの裏コードです。
そして次、転調して再びC#調にもどります。
C#M7-D#m7 | C#M7-BM7 |
前半のこの部分はAメロと同じコードで、メロディも同じ譜割ですが、メロディは全体まるごと短3度上にあげられています。そして、
F#-C#m(onE)-D#m7-G# | C#M7-D#m7-E#m7-F# |
ここは楽曲のフィニッシュ部分ですね。
サブドミナントF#からトニック裏C#m(onE)を経過してツーファイブのD#m7-G#へとつなぎ、
C#M7からは余韻を残す感じで、ダイアトニックコードをⅠからⅣまで順次上がっていく。
メロディの動きも、終わりそうなときによくある感じのヤツです。
この一連のコード進行のコンビネーションは、歌もの楽曲のエンディング部分などでは応用がききそうですね。遠慮なくパクりましょう。
短い曲ですがさりげなく多くのテクニックが隠されていて、解説にも力が入りました。一時的転調や裏コードの部分はある程度知識がないと理解できないかもしれません。
しかし、ここで紹介したワザは応用が利きやすいので、ぜひ学習して、お手本として参考にするとよいと思います。