コンプレッサー、使い方がよくわからないままなんとなく使っていませんか?
ほんらいの使い方をよく知らないまま、とりあえず「音を大きくするのに使うんでしょ」という曖昧な認識のまま使われていることが多いようです。
確かに、「音を大きくする」、より正確には「音を圧縮して迫力を増す、音圧を上げる」というのは間違ってはいません。
しかし、現場のミキシングエンジニアは「音を大きくするため」などという素人くさい理由でコンプを使いません。代わりに、ただ3つのシンプルな目的だけを持っています。
「音が大きくなる」というのはあくまでその3つの効果を得た上の副次的な結果であって、主要な目的というわけではないのですね。
初心に立ち戻ってよく考えてみれば、良い音源を作るために必要なのは「音を大きくすること」ではなく、「音をよく聴かせること」ですよね。
はじめて曲を作ったとき、再生してみて「ギターの音がよく聴こえないな~」「録した音が小さいから、音量あげるしかないや、ぼりゅーむ上げちゃえ!」などとよくやっていませんでしたか。
必要なのは、「音をもっとよく聴かせるため」であって、「音を大きくする」はその手段であったはずです。
コンプレッサーも、もともとは「音をよく聴かせたい」から使うのであって、別に「音を大きくすること」を主眼としていないのです。
音を大きくしたいなら、ボリューム上げればいいのです。それでもよく聞こえないから、「音がよく聞こえないのは、音量じゃなくて、音圧が小さいのが原因」とわかる。そこではじめてコンプレッサーを使うわけです。
では、音をよく聞かせるためにコンプレッサーを使う、3つの理由とは。
1. サステインを強調する
「サステイン」とは音の延びの良さのことです。ギターなどではコードを掻き鳴らしたとき、その余韻がどれくらい残るかで曲の印象は変わります。豊かなサステインがあった方が、伸びやかで美しい空気間があって良いです。
サステインを強調するためには、「リリースタイム」をコントロールします。長くする(言い換えると、数値を上げる/遅くする)と、コンプレッションが解除されるまでの時間が長くなることで、圧縮された音が徐々に元の大きさに戻るまでの時間が長くなります。その、小さくなった音量が戻っていくまでの微妙な時間差の感覚が、サステインを強調します。
ただし長すぎると音が圧縮されたまま戻ってきません。「おい、ちょっと隠れすぎ」となります。
テンポや音を鳴らす時間も考慮して、どのタイミングで音量圧縮が解除(リリース)されて元のボリュームが戻ってくるのが気持ち良いのか、そのタイミングを探りましょう。
2. トランジエンスの処理
「トランジエンス」とは説明の難しい概念ですが、「一時的であること」という意味です。ミキシングの現場では「そのサウンドが鳴る瞬間のインパクト性」というような意味あいで使われることが多いようです。
つまり、そのオーディオファイルの頭がどのように聞こえるか、その性質のことを指します。
たとえば、「トランジエンスのカッティングノイズが少し気になる」などのように使います。
コンプレッサーは、このトランジエンス部分の音量を圧縮し、音量全体のバランスを整え、耳さわりをよくします。
「スレッショルド」で設定した値を境界に、それより音量の大きい部分は抑え、小さい部分は大きくします。
音の入りの部分が大きすぎたりするとびっくりするので、音量を全体的に平均化するのです。
音の圧縮がかかるまでの時間は「アタックタイム」で調整できます。
アタックタイムを最速にすることで、音が鳴った瞬間に圧縮でき、音量バランスを均一化できます。
その圧縮効果の持続時間を「リリースタイム」で調整するわけです。
リリースタイムを遅くするほど、圧縮がかかったままになるので、音量の平均化が保たれます。
アタックタイムを最短に、リリースタイムを最長に設定すると、音の鳴り始めから演奏中~鳴り終りまでずっと音量の平均化が維持されることになります。
つまり、アタックタイムとリリースタイムのコントロールによって、
・曲のアタック成分と、ボディ成分をコントロールできる
というわけです。これによって、「ギターのリズミカルなアタックのカッティング音はあえて残したい」「ベースのボディ成分のうなりを強調したい」というような、より音楽的な目的を達成することができます。
このような加工は、基本的なトランジエンスの処理が完了したあとに、よりエフェクティブに音楽的ミックスをしていく段階で行うことですので、トランジエンス処理用のコンプレッサーとは別にもうひとつコンプレッサーを追加して行うことが多いです。
音響的なトランジエンス補正用と、
より音楽的効果を狙ったアタック・ボディ成分の加工用で、コンプレッサーを分けるのです。
これが、プロがひとつのトラックに複数のコンプレッサーを挿す理由のひとつであります。
3. 音量のコントロール
音量を、スレッショルドで設定した値を基準に圧縮します。それによって、スレッショルドより大きい音は小さく、小さい音は大きくなります。
よくも悪くも、「よく聞こえていた音はよく聞こえなくなり、よく聞こえなかった音はよく聞こえるようになる」のです。
音のバランスがよくなるのはよいのですが、全体を通して平均化しすぎても、のっぺりして味のないサウンドになってしまいますので、
各パートで「そのサウンドの響きのきれいな音成分はどこか」「自分がどの音成分をよりよく聞かせたいのか」という意図を明らかにして、コンプレッサーのパラメータを調整します。
たとえば、リリースタイムをはやめに設定すると、圧縮された音が元の音量に戻るのがはやくなります。
すると、圧縮されて小さくなっていた部分のサウンドが、バウンドするように戻ってきます。
この性質を利用することで、小さくなっていた音を復活させてアクセントをつけることができます。
たとえばドラムトラックにコンプレッサーをかけるとき、
リリースタイムをはやめに設定することで、圧縮によって小さくなっていた低音のゴーストノートの音が復活していきます。
音量の「圧縮ー圧縮解除」の振れ幅が、リズムに合っていると、自然なダイナミクスが得られ、非常に効果的です。
メーターが左右に触れる針タイプのディスプレイがついているコンプレッサーなどでは、揺れがドラムのリズムに合うように、アタックタイムとリリースタイムを調整してみるといいです。
これの応用として、ベースにサイドチェインコンプレッサーをかけてキックと連結するワザがあるわけです。キックが「ドン」と鳴るときは、ベースはスッと引っ込み、キックが鳴っていない合間を縫って、圧縮された音量が跳ね返ってくる。それであの「ドンゥウー、ドンゥウー」というような、裏拍でベースがうなるような効果が出せるわけです。やりすぎるとうっとうしいですが。
細かいワザですが、圧縮された音の戻る現象を利用した効果的なサウンドメイクです。
いかがでしょうか。ただ「音を大きくする」ためではなく、「サウンドの聞かせたい部分をきちんと聞かせて、そうでない部分は抑える」ためにコンプレッサーを使うのです。結果的に「音が大きくなったように感じ、音楽をよく聴かせられるようになる」というわけです。