ARRANGE/STYLES
このカテゴリでは様々なアレンジ/スタイルを見ていきます。メロディとコード/ハーモニーを組み立てることを「作曲」といい、楽器を割り当てたり、細かい声部の動きを考えたりすることを「アレンジ」といいます。作曲者がピアノやギターだけで作曲した曲を、編曲者が バンド編成や管弦楽風に拡大したりすることがアレンジです。
アレンジのヴァリエーションは非常に多岐にわたって考えられるので、楽曲の用途や性格、作曲者の要望によって、なんらかの制限や方針を設けることがあります。例えば、楽器やジャンルの指定、「~年代風」や「ラテン系」「ビートルズっぽく」「チャイコフスキー風」などという指示です。とくに方針がない場合や、作曲者自らアレンジする場合、編曲者に全面的に任せる場合などは、アレンジする人の個性やオリジナリティを優先させることになるでしょう。こういった、どのようにアレンジするかという方針を「スタイル」と呼びたいと思います。スタイルに関わる要素を以下で考察してみます。
CONTENTS
- FUNCTION & ROLL
CHAMBER OR SMALL ENSEMBLE – 室内楽風、スモール・アンサンブル
ORCHESTRAL OR LARGER ENSEMBLE – オーケストラ、ラージ・アンサンブル
SYNTHESIZER&SAMPLES – シンセサイザー&サンプル
FUNCTION & ROLL
楽曲の機能や役割によって、アレンジの方針は具体的に絞り込むことができます。スタイルの方向性を決める特徴的な機能を見ていきます。
うたもの、ヴォーカルを主軸とする曲は、言葉によって何らかの具体的な世界観を表現することが役割と言えます。ですので音楽は基本的に歌をサポートするアンサンブルに徹することが多いでしょう。器楽的に大胆なことは間奏に挟む程度で、他はメロディの合いの手をとったり、ユニゾンをしたりと、歌を引き立てることが大前提のアレンジがなされます。
うたものの音楽は独立した作品として成り立ちますので、テーマソングやソロヴォーカルを擁するバンド、歌手のための独立的作品としてつくられることがほとんどでしょう。どんなテーマを表現するかは、以下のようなものが代表的です。
Emotion – 情動
いつの時代でも、恋愛、友情、別れ、悲しみといった基本的情動は歌になります。ポップスは基本的にこういった多くの人の関心をひく情動を外すことができません。
Story – 物語
あまり直接的に感情を煽るのを避け、ストーリー的な詩世界で展開するのは、THE BEATLESなどが参考になりますが、日本のロックバンドも得意とするスタイルです。BUMP OF CHIKEN, フジファブリックなどが参考になります。
Poem – 詩
言葉数を絞って、文学的なアプローチで詩的な歌詞をつくるのも魅力的です。多少謎めいていたり、意味はなくとも語感のよい言葉を使ったりして、面白い歌世界が作られることがあります。THE BEATLES, KRAFT WERK, RED HOT CHILI PEPPERS, 日本ではNUMBER GIRL, THEE MICHELLE GUN ELEFANT などは素晴らしい詩的世界を作っています。
インストゥルメンタルでは、メロディと歌詞に縛られない分、具体的なものから抽象的なものまで、かなり幅広い表現が可能になり、与えられる役割も多岐に渡ります。
「絶対音楽」と「標題音楽」という概念がありますが、様々なメディアのための作られる音楽は多用なムードやコンセプトを表現するように作られていますので、基本的に標題音楽ということになるでしょう。音楽で何を表現するか、そのテーマには様々なものがあります。
Idea – アイデア
Concept – コンセプト
Something Abstract – 抽象概念
Feelings – 感情など
楽曲を制作する前に、このような表現する対象となるものを書き出し、アレンジのイメージを絞り込むことは重要です。
自然や風景、人物、出来事などを、絵画的に表現するスタイルは、器楽の得意とするところです。各楽器はいろいろな物理的イメージを連想させる音色や奏法を備えておりますので、それらを巧みに組み合わせて、対象を描写します。ムソルグスキーの『展覧会の絵』(ラヴェル編曲)は、まさに音楽で表現された絵画展です。
Nature – 自然
Scenery – 風景
Phenomenon – 現象
Landscape – 眺望
Picture – 絵画
Person – 人物
Events – 出来事
何らかの機能や効果のみに徹するタイプの音楽は、いろいろなリスナーのニーズによって作られます。
Dance – 踊り
Relax – リラックス
Healing – ヒーリング
Sleepy – 眠り
音楽の形式や理論に、様々な切り口でチャレンジすることは、オリジナリティあふれるスタイルを構築する上で欠かせないアプローチです。異なるジャンルを組み合わせたり、誰も試したことがないような実験的な試みをしたりして、独自の表現を確立するのに適したスタイルは、例えば次のようなものがあります。標題的なテーマがあるものあれば、純粋に音楽的要素を追求するタイプも多くあるので、次の絶対音楽的なアプローチと標題音楽的アプローチの両方で可能な、かなり自由度の高いスタイルと言えるでしょう。
Progressive – プログレッシヴ
Improvisational – 即興的
Fusion – フュージョン
Mixture – ミクスチュア
Hardcore – ハードコア
Scientific – 科学的アプローチなど
標題的音楽とは対照的に、音楽で何か対象を表現したりしない、純粋に音楽要素の芸術的構成のみを追求するスタイルは、「絶対音楽」と呼ばれ、ブラームスなどが代表的と言われています。旋律や形式、和声や対位法的関心など、どんなものでも、純粋に音楽の要素の何かを追求して作曲するならば、非標題的音楽、絶対音楽的アプローチだと言えます。十二音技法を作り上げたシェーンベルク、リディアン・クロマチック・コンセプトを打ち出したジョージ・ラッセル、モーダル・ミュージックを確立したマイルス・デイビス、ミニマル・ミュージックと呼ばれる世界を切り開いたフィリップ・グラス、スティーブ・ライヒ、ラ・モンテ・ヤングなどは、異なる観点でそれぞれの音楽への関心を追求し続けました。商業性やニーズから解放されている場合は、あえて自己の音楽的関心を追求するのも大切でしょう。
Counterpoint/Polyphonic – 対位法/ポリフォニック
Theoretical – 理論的アプローチ
Original Theory – 独自理論の構築
目指すスタイルや狙いたい効果によって、使用楽器とその数ーアンサンブルのサイズも決まります。壮大でスケール感の強いイメージならば、大編成のオーケストラに、親しみやすく軽めな室内楽なら、オーケストラ楽器メインでも全体の本数は少なめで、バンドスタイルやベーシックなポップスならば4リズム、抽象的でデジタルな雰囲気が欲しかったらシンセ・サンプル主体で、といった具合に、目指す表現にもっとも適した楽器編成を選ぶ必要があります。「統一感」「独立感」「効果」「響き」などが特徴的なパラメータです。
ベース・ドラム・ギター・ピアノという、もっともオーソドックスな編成です。バンドミュージックやうたものはもちろん、リニアなメロディを主役とするインストゥルメンタル・ポップス、即興演奏主体のジャズ、ブルース、フュージョンなどでも大活躍します。各楽器の役割がはっきりしているため、アレンジの方向性が定めやすく、また他のいろいろな楽器を追加して拡張することもできます。非常に幅広いアレンジが可能で、様々な表現にバランスよく対応できます。
“GOGO TOTORI” – 『アトリエ トトリ』
“TRY” – 『アトリエ トトリ』
少数の管弦楽器群とピアノ/ギターを基本に、パーカッションや特定のソロ楽器などを加えた、コンパクトなサイズの編成です。迫力やパワフルさはおさえ、各楽器のキャラクターを最大限に活かして、かわいらしさやコミカルさ、切なさや悲しみといった、特定の情緒や雰囲気に特化した表現が得意だといえます。
“To Our Surprise”, Yoko Shimomura – KINGDOM HEARTS
菅弦楽器群を中心として、複数の打楽器群、合唱隊やその他の編成でも使用した様々な楽器を加えることで、最大規模の編成をつくることができます。ダイナミックな統一感ある演奏、重く迫力ある響きが表現できます。細かい表現をしたいときは、全体の音量を落として演奏する楽器を抑える必要があります。
“The 13th Reflection”, Yoko Shimomura – KINGDOM HEARTS 2
“Sinister Sundown”, Yoko Shimomura – KINGDOM HEARTS 2
“March in C”, Masashi Hamauzu – UNLIMITED SaGa
シンセサイザーとサンプル主体の編成では、生楽器演奏やそのシミュレートを中心とする編成とは対照的に、リアリスティックな演奏表現に関する要素が排除できます。そのため「規模」という概念も後退し、単純に楽曲の「雰囲気」「効果」「響き」など心理的/抽象的表現に集中でき、シンセ音色選定や全体の音量や周波数のバランスをとることが問題となります。アンサンブルのスケール感は楽器数でなく単純に音楽の印象によって心理的にいくらでも変わりようがあるわけで、サイズ「0」とも「∞」ともいえます。
加えて、現実世界の表現リアリティを超えた、想像世界の表現リアリティが求められます。生演奏のリアリティは、音の減衰や響きなど、演奏に必然的な物理的要素の追求によって表現し、それの総体が楽曲の規模や響きにつながりますが、シンセ音楽のリアリティは、演奏情報による物理的ノイズは排除し、演奏による効果のみをいったん抽象化して、その音楽的機能を特化させ極端に強調することによって実現します。たとえば、ハウスやテクノのキック、ベースは、短く重く迫力ある低音を繰り返すことによる、ダンス・ループの基幹となる機能に特化して表現されており、人の演奏とは切り離されています。人間による生楽器演奏には物理的ノイズや揺れや響きがつきもので、それがアンサンブルの中で生き生きとした表情を作り出していますが、シンセでは人間と物理世界のノイズは排除し、純粋に音の機能・効果を追求することができます。
具体的なアレンジのスタイルを定めるには、以下のような「コンセプト」となるようなアイデアも役に立つでしょう。
Pops – 「ポップス」
ベーシックなポップスといえば、やはり4リズムでのコーダル・アプローチです。特別なアレンジが求められない場合は、このスタイルがデフォルトになるでしょう。
Traditional – トラディショナル
地域や民族、ジャンルにゆかりのある楽器、歴史のある楽器など用いるなら、ある程度必然的にその音楽にあった「伝統的な」スタイルがきまるでしょう。
Ethnic/Exotic – エスニック/エキゾチック
民族楽器と、地域になじみのあるスケール/モードを用いることによって、異国情緒あふれるサウンドを取り入れることが可能になるでしょう。
Song – Dance ソング or ダンス
歌のための音楽か、踊りのための音楽か、というのもアレンジの方針を定めます。たいていのポップスは歌/メロディを引き立てるアレンジがなされますが、ダンスミュージックではリズムに特化したアレンジになります。
Religious – Ritual 宗教 – 儀式
特定の儀式や祭典のための音楽には、ある程度厳しい制限や形式が求められます。神秘的なコラール、ファンファーレなど、そういった音楽が必要な時には、それらの 形式を模すことで雰囲気を取り入れることができるでしょう。
Various Composers, Groups
「モーツァルト風」「チャイコフスキー風」「ストラヴィンスキー的」「ビートルズ」「クラフト・ワーク」「レッチリ風」「YMO」など、誰もが知っているような有名な作曲家/グループを例に、アレンジの方針を定めることできます。
Genre ジャンル
「ロック」「ジャズ」「テクノ」などなど、これだけではあいまいですが、ひとまずおおまかな方針をつかみたいときには便利でしょう。
Periods – 時代
バロック、古典派、ロマン派、20世紀、19~年代風、など、時代である程度イメージを絞り込むこともできます。
Countries/Regions – 国、地域
「ラテン」「アフリカン」「中東」「アイリッシュ」など、特定の国や地域の雰囲気を取り入れたいときは、その地域に特有の楽器や音楽すスタイルを取り入れる必要があるでしょう。
特定のコンセプトとは別に、純粋に音楽の構成要素でもスタイルはつくられます。ひとつひとつの音の組み立て方、動かし方、発展させ方をどのように仕上げるか、それはメロディ、ハーモニー、フォームなどの要素のどれに関心があるかによって左右されるでしょう。対位法的に複数のメロディが絡んでいたり、転調を多用した和声の色彩変化が強調されていたりと、作り手にはそれぞれ独自の理論や強みがあり、様々なスタイルを持っています。いろいろな時代、ジャンル、作曲家の作品を聞いて、そのスタイルを知ることは、やがて自分自身のスタイルを形成することにつながるでしょう。作編曲者は、以下のどの要素に関心があるかを知ることで、自分の作品の傾向をつかみ、強みを見出すことができるのではいのでしょうか。
Melody – メロディ
メロディ的センスが強ければ、バッハのように流麗なラインを組み合わせたり、モーツァルトのようにのびやかなメロディを歌わせたり、チャイコフスキーのようにロマンティックなメロディを響かせたりと、メロディや各要素の旋律的動きに特徴のあるスタイルがつくられるでしょう。
Form – フォーム
音楽全体の構成に注目するならば、ベートーヴェンのように論理的に発展する、建築的で説得力のあるフォームや、ブラームスのように正確無比な統一感あるバランス、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスのように特定の音楽要素の組み上げ方をテーマとした特殊な語法を生み出すことができるかもしれません。
Rhythm – リズム
リズムやパーカッションに強みがあるならば、ラテンやアフリカン・テイストを取り入れてプリミティブなグルーヴを操るスタイルが生まれるかもしれません。さらにシンセサイザーに強ければダンスミュージックも得意とするでしょう。ストラヴィンスキーのようにオーケストラを用いた現代的なサウンドを追求することもできます。
Dynamics – ダイナミクス
ダイナミックな音量変化、壮大なスケール感は、ベートーヴェンの時代から嗜好され続けています。近年、”Epic Sound”「エピック・サウンド」などと称されている映画やゲームのトレイラー・ミュージックなどは、大編成のパーカッションセクションを主体とする大胆な音量変化に加え、派手な音色と爆発的効果などで印象深い音楽スタイルを完成させています。
Harmonic Colour – ハーモニック・カラー
転調や和声的色彩に特徴がある作曲スタイルは、19世紀ロマン派時代以降から顕著に現れるようになったと言われています。ワグナー、ラヴェル、ドビュッシー、ラフマニノフ、マックス・レーガー、フランツ・シュレーカーなどの作品に親しめば、メロディやフォームだけに依らない豊かな音楽表現スタイルを垣間見ることができるでしょう。現代ではシンセサイザーによっても、多用なハーモニック・カラーを追求することができます。富田勲さんの『惑星』『火の鳥』など、シンセによるカラフルなクラシック・アレンジ作品群を聴いてみましょう。
Modal Colour – モーダル・カラー
特定のエキゾチックなモードに親しみがあったり、様々なスケール/モードに習熟しているならば、ムソルグスキーのようにモードの性格を生かした絵画的な作品を生み出すことができるかもしれません。また、マイルス・デイビスが追求したモーダル・ミュージックのように、メロディやフォームにとらわれない即興的な作風も魅力でしょう。
Instrumental Colour – インストゥルメンタル・カラー
いろいろな楽器に習熟すれば、ベルリオーズのように多用な奏法や音色を組み合わせて、ヴァリエーション豊かなアンサンブルをスタイルとすることができるかもしれません。
Improvisational - 即興演奏
楽器の即興演奏を得意とするならば、ジャズやブルース、フュージョン的なアプローチはもちろん、少数のバンドスタイルやモーダル・アプローチなども駆使して、演奏の可能性を最大限引き出すようなスタイルが模索されることでしょう。