DAWで楽曲制作中は、打ち込んでいる自分の曲を何度もプレイバックしていくことになります。
作業が長引いて何度も何度も再生しすぎると、未完成の状態の曲に耳が慣れてしまい、感覚がマヒしてきます。すると、いろいろな弊害が起こります。
最初はかっこいいとおもって打ち込んだ曲のアイデアも「これ、本当に良いのだろうか」と疑うようになったり、「この音色、つくった時はかっこいいと思ったけど、飽きてきた・・・」などと音色エディットを延々と繰り返したりして、曲の完成が見えなくなったします。
このように、プレイバックのしすぎで聴覚がマヒして制作が行き詰まる現象を、英語では「オーディオ・ファティーグ(Audio Fatigue)」などと言ったりします。
これはDTM者にとっては避けがたい悩みのひとつであり、対処にあたってはできるだけ効率よい曲つくりのフローを構築するか、または耳と頭をリフレッシュするための策を立てる必要があります。
そんな「オーディオ・ファティーグ」に陥いらないようにするコツ、または陥った時の対策をいくつか書いてみます。
共通するポイントは「自らに制限を課す」ことと「どんどん前に進むこと」です。
いつも自由きままに曲つくりをするのではなく、テーマや縛りを設けて、それに忠実に制作するのです。自分自身のプロダクション・ルールのようなものです。そうすると、いつまでも同じ個所をエディットしている間もなく、自然とどんどん次の作業に進むようになります。
例えば・・・
ルール1「最初に”これでいこう”と決めた音色は変更しない!」
あなたは楽曲完成までに毎日何時間もその制作中のプロジェクトを聴いているかもしれませんが、リスナーがはじめて聴く瞬間はほんの数分です。自分の耳が慣れて音色に新鮮さを感じなくなったからといって、見限るのはまだはやい。
ルール2「何時間、何分以内につくる!」
あえてタイムリミットを設けます。締切までに終わればいいや、ではだめ。バッキングパートのアレンジはこの日までに完成させる、ミキシングは一日以内に終わらせる、などと、制作のフェーズごとにタイムリミットをセットします。実際にタイマーもセットするといいでしょう。
このような縛りは、「テーマを絞る」と言い換えてもいいでしょう。「バンド編成だけでつくる」「ストリングス編成だけでハーモニーをつくる」など、上達したい技術に集中して制作にあたるのもいいと思います。
ルール3「ムダにプレイバックしない」
最初のうちはよくあることですが、自分が打ち込んだ曲が目の前で再生されていくのが嬉しくて、ついつい何度も全体を通してプレイバックしちゃう・・・まだ完成していないのに。
これを繰り返すと、そのうち「で、まだ終わっていないが、この次はどうすればよいというのだ」と自問自答を繰り返し、そのうち「考えるのをやめた」となる可能性があります。その未完成の状態が当たり前になってしまい、どこを変えればいいかわからなくなるのです。そこでも「とりあえずもういちど最初から聴いてみっか」というのは逃避行為に近く、プレイバックすればするほど耳が疲れ、完成が遠くなります。
プレイバックするときもなんとなくするのではなく、きちんと目的を持っているのがよい。打ち込んだ音の確認や音量の確認のため、などどうしてもプレイバックする必要がある場合のみするのです。自分の作品に酔うのは、完成してからいくらでもやればいいので、制作段階ではムダにプレイバックはしないようにしましょう。
裏ワザ「コンディションを変える」
これはルールというよりも、こういうことをしたら耳がさえ、閃きが生まれる場合がある、というような「噂」のようなものですが、面白いので紹介しておきます。
「コンディション」つまり聴覚およびほかの感覚と精神状態を含む心身の状態をいつもと違う状態にして、制作をしてみるのです。
要は気分転換というわけですが、そのやり方をちょっと意識的に、ときにドラスティックに工夫してみるのです。
例えば、定番は「お風呂に入る」です。行き詰ったり疲れたりしたらとりあえずお風呂に入ってリフレッシュするのです。
脳を解放し、リラックスしていると、急に「こうすればいいじゃんか」のようなアイデアが降って来たり、なんとなく口ずさんだ鼻歌が「これは良い!」となったりします。
お風呂ではパソコンは触れませんが、ひらめいた瞬間裸のままタオルをまいてパソコンの前へダッシュする。これは音楽人に限らずクリエーターの家庭でよくある現象です。
これをやってる作曲家は多く、「リッジレーサー」や「モンスターハンター」の音楽を作った元ナムコの佐野信義(電磁)さんなどは「フロ(風呂)ツールズ」などと言っています。
また、FFの植松伸夫さんは「風呂場でパンツ脱いだときにひらめく」などとインタビューで言っていました。
ほかには
「早朝や深夜の時間帯にやる」
「目隠ししながら聴く」
「好きな作曲家の恰好をマネしてやる」
「(少し危険だが)断食した状態でやる」
「もはや聴かない。DAWの画面情報だけでつくる」
「Youtubeにあげる目的でやる」
「2時間以内に一曲完成させないと死ぬ」
「誰かと共同でやる」
など、身体・精神の両方において何らかの条件づけをすることで、創造性を高めるのです。制限が厳しいほど、クリエイティブになれるとはよく言われることでしょう。
オーディオ・ファティーグを回避するだけでなく、新しいアイデアを得ることにもつながるので、おすすです。
ほかに変わった例では「セックスの後にやる」なども。しながらはできない(やってもいいですけど)ので、やった後でやりましょう。あとで相手には「あの曲はおまえとセックスしたあとにできたんだわさ」、とか言ってやりましょう。
こんな感じです。自分なりのコンディションチェンジ方法をいくつか持っているとよいのではないでしょうか。
しかしこれだけはやらないがよかろうということがあります。それは「酒、ドラッグを使う」です。
これらに頼ってハイにならないと作れないというのでは、制作者としての格が疑われるでしょう。やらないことです。