シンセ用語の整理


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 シンセサイザー用語を整理する。具体的なシンセの操作方法について解説することは目的ではないが、これら言葉の用途を整理することで操作における混乱を減らすことができる。

※以下の記述は

シンセサイザーをある程度まで使っているが、その用語や仕組みについての理解は曖昧だという場合、知識の復習や確認に役立つでしょう。まったくこれからはじめて触れるという場合は、何が何だかわからないと思いますので、ひと通り目を通したあとに、気になることがあれば戻ってくる程度でかまいせん。

 

さて、シンセサイザー用語はカタカナ語ばかりで、どれも概念をしっかり理解しないと混乱しやすい。

これは音楽用語全般に言えることだが、シンセの世界ではとくに混乱が多い。

が、結局のところ重要なのは言葉というより、それによってどんな目的を達成したいかである。すなわち

・どんな音を作りたいかを自分で理解すること
・シンセについて人に説明する(そういう状況もあるはずだ)こと

だから、これら目的を達成さえできれば、自分と周りの界隈だけで通用する言い回しだけで済ませるのはかまわない。大きな視点で何を問題としているかがわかれば、文脈から把握できるからだ。だが知識をより正確に理解し運用しようとしたとき、一般化の必要性が生ずる。よって以下、いくつかの重要なシンセ用語に着目して意味の一般化、整理を行う。

まず最初に次の3つについて整理すると、のちのち理解しやすくなる。

・基本(オシレータ、フィルタ類、エンヴェロープ)

・LFO

・モジュレーション

シンセの問題はたいていこのカテゴリにおさまる。もっとも一般性が高いのはモジュレーションで、実際、LFOもエンヴェロープもモジュレーションの一種である。よって基本とモジュレーションをしっかり把握することでたいていの混乱はなくなる。

 シンセを少しかじるとだいたい基本までで理解がとまることが多いという。するとモジュレーション系の問題に直面したときに混乱をきたす。基本を覚えた上で、すべての要素にかかわるモジュレーションを理解し、改めて基本操作を確認しなければ、どこかで不満足が生じることになるだろう。それほどシンセにおいてモジュレーションは包括的な概念であるということはぜひ意識しておこう。
 シンセは「基本」の要素に何かを掛け合わせることで音をつくるので、基本となるパラメータと追加する要素を組み合わせて、自然発生的に呼称が生まれることが多い。たとえば「フィルターLFO」といった場合、フィルターにLFOによる「モジュレーション」を施すことを示す。「ピッチエンヴェロープ」といった場合、オシレータのピッチにエンヴェロープによる「モジュレーション」を施す。
 この場合、どちらも「モジュレーション」を行っているわけだが、個々の要素がそれぞれイコール=モジュレーションと理解するときに混乱が起きる。モジュレーションとはあくまで「変調」という上位概念を意味するのみにすぎず、それ自体独立したパラメータを持つわけではない。
 ややこしいのは「モジュレーション・エンヴェロープ」で、これはモジュレーションにさらにエンヴェロープによるモジュレーションをかけることを意味する。たいていは、LFOにエンヴェロープによるモジュレーションを施すことを指すが、LFOもそもそもモジュレーションなのだからややこしい。
 要するに、オシレータとフィルタで基本音色を作ったら、あとの音創りはすべてモジュレーションとひっくるめていってしまうこともあるわけである。しかし、アンプリチュード・エンヴェロープ、フィルター・エンヴェロープは基本要素として特に重要なため、初学者はこれらをモジュレーションとはじめから理解している人は少ない。だから後でモジュレーションを学ぶときにエンヴェロープそのものがモジュレーションなのですよと聞かされると、初期に習ったアンプリチュード・エンヴェロープ、フィルター・エンヴェロープの記憶が邪魔をし混乱が生じるわけだ。

次に、もっと細かくそれぞれの用語について整理する。


基本
オシレータ
フィルタ
エンヴェロープ・ジェネレータ
ーアンプリチュード・エンヴェロープ
ーフィルター・エンヴェロープ

モジュレーション

a. LFOを使用
ーピッチLFO=ヴィブラート
ーアンプLFO=トレモロ
ーフィルターLFO=ワウ
ーパルス幅LFO=パルス幅モジュレーション

LFOのパラメータ

波形 Wave Form
周波数 Rate
振幅 Amp


b. エンヴェロープを使用
ーアンプリチュード・エンヴェロープ(基本要素)
ーフィルター・エンヴェロープ
ーピッチ・エンヴェロープ
ーモジュレーション・エンヴェロープ
 ーLFO・エンヴェロープ

その他、シンセによってモジュレータとなれるパラメータはさまざまある。

c. ヴェロシティを使用
d. ノートナンバーを使用(キーボードトラッキング)
e. コントロール・チェンジを使用
f. オシレータを使用ークロス・モジュレーション

以上でフォルダ分けは完了。これだけでも頭がすっきりするはずだ。音つくりの際、対象の操作が何のカテゴリに属するのかさえ理解できれば、それについてより詳しい知識、欠損している知識を、書籍やネットで調べて補うのは容易なことである。これらのフォルダ分けは、「何がわからないのか、わからない」という問題を解消するのに役立つであろう。

次に、モジュレーションについて細かい点を補足しておく。

 モジュレーションを行う場合、上記の基本デバイスに付随してさらに考慮すべきパラメータがいつくも存在する。モジュレータ(変調する側)、ディスティネーション(変調される側)ごとに個別のパラメータがあるので、それらとの掛け合わせによってまた音作りのバリエーションは倍増する。個々の独自パラメータの変化については盲点になりがちなので注意。たとえばレゾナンスやパルス幅など、基本的なものでも最初のうちは忘れやすい。エンヴェロープのホールドタイムやディレイをうっかりオンにしているといううっかりさんも多い。その他さまざまな周辺数値があるので、それらをきちんと把握していないと、どこかで不満足が起きる。

 LFOによるアンプリチュード・モジュレーションの概念を発展させたのがFMシンセだ。LFOは低周波なので聴こえないが、これを普通のオシレータのように聴こえる高さの周波数で変調させて音をつくる方式がFM音源。つまりオシレータを2機以上掛け合わせる。FMでないシンセでもオシレータは2機以上ついていることが多いが、それらはLFOのようにモジュレーションとしては使わず、単に並列に出力して音を合成するだけである。FM方式ではそれらを互いに変調しあわせて音をつくっていく。互いの波形に影響しあうかどうか、並列か直列かの違いといってもいいだろう。

 次に、モジュレーションの効果がエンヴェロープによるものかLFOによるものかを判断するときの、考え方を紹介しよう。この2つはどちらも時間領域の変化なのでごっちゃになりやすいのだが、次のように整理するとイメージしやすいと思う。

LFOー低周波数で「揺らす」概念だから効果は「連続的かつ反復的」

エンヴェロープー「包む」概念だから効果は「瞬間的または流動的」(非連続・非反復でLFOの逆)


 こんなところである。シンセ用語整理の必要は以上で最低限満たされたと思うが、じっさい、仕組みは理解したつもりでもいざ音つくりに取り組むとお手本どおりのサウンドにはなかなかたどりつけないものじゃ。ある程度までは推測で当たる。しかしそれから先はいくら考えてもどうにもならないので、次第に考えるのをやめて手当たりしだいパラメータをいじりだす。するとたいてい失敗するが、たまに近づいたりする。それを繰り返して徐々にイメージ通りの音に近づいていく。じっさいはそんな場合が多い。そして、それに費やす時間と労力は、想像以上に果てしないものだ。



 そもそもシンセでつくるような、自然界に存在しないタイプの音は、構造がイメージしづらく、難しい。

 トレモロ、ヴィブラートなど基本的な変調の特徴はすぐにイメージできるのだが、二段階以上の変調になったとき、異なる変調の組み合わせや、LFO波形ごとの違い、パラメータの程度による違いなどいくつものパターンが組み合わさると、次第に混乱しわけがわからなくなる。
 基本操作はあくまで基本で、ある変調とある変調が組み合わさったときどうなるかという実際の体験を積み、その語彙を蓄えることが何より重要。だから、シンセに困っている初期段階では、ひとつひとつの構造を詳細に理解するより先に、上記のようにひとつ高い視点での概念把握からはじめ、自分が「何を理解していないのか」を整理するのが有効だ。体当たり学習は、もちろん必要であるが、それにかける時間労力は、少ないに越したことはないからだ。
 きちんと仕組みを理解した上で、変調のコンビネーションorパラメータのバリエーション不足による混乱が起きることは、普通。そういった具体情報による混乱は、やっているうちに慣れて理解できる。しかし、シンセの操作と仕組みの理解が曖昧な場合、決して目的の音に辿りつけないだろう。シンセにおいては特に、こういった俯瞰的な考え方と、体当たり学習は、ふたつでセット、知行合一が大切というわけだ。

By Maschinenraum from Flickr (Source) [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons


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