III♭はトニックマイナーのIIIです。よってメジャースケールにおいてサブスティテュートすれば、一時的にトニックを共有するマイナースケールに移行することになり、コード、コード進行もマイナースケールのモデルに沿ったものに変化します。
トニックメジャースケールにIII♭を導入したスケールは、メロディック・マイナースケールと同じですので、得られるコードもトニック・メロディック・マイナースケールと同様です。
メジャースケールとの違いは以下のコードです。
I-CmM7
III-E♭M7aug
IV-F7
VI-Am7(-5)
ここで少し「モード」という考え方について触れておきます。キーとダイアトニックコードを固定して、転調・非転調を明確に分けるのがコーダル・アプローチの考え方ですが、モードに着目したモーダル・アプローチでは、さまざまなスケール・カラーの効果的活用、およびスケール間の比較的自由な移行を許容し、いろいろな音楽的コンテクストやムードを作りだします。よってあまり転調部分を明確に仕分けしたり、ケーデンスを介した古典的な転調技術を用いたりする必要がなく、むしろそれを避けます。
とくにトニックを共有するスケールからのサブスティテュートについては、コーダル・アプローチの作曲においても、モーダル・アプローチにおける「モーダル・インターチェンジ」という視点が有効です。トニックを共有するスケールとは、つまりルートが同様でインターバルの異なるスケールたちのことです。メジャースケールとトニックを共有するスケールはマイナースケールだけではありません。マイナースケールだけでも3種類ありますが、他にもドリアン、リディアン、ミクソリディアンといった、インターバルの異なるさまざまな種類のスケールがあり、これらはひとつのメジャーコードから派生します。(モードについては、モーダルアプローチの項で詳しく記述します。)
上のコードは、トニック・メロディック・マイナースケールのダイアトニックコード群ですので、これらを使用することで、「トニック・メロディック・マイナーモード」への移行が可能になるとも言えるのです。よって、これらのコードを使用している箇所は、トニックマイナーへの一時的転調と考えてもよいのですが、トニックスケールをメジャーモード(イオニアン・モード)からメロディック・マイナーモードへずらしているだけ、とも考えることができます。このような、異なるモード間を行き来することを「モーダル・インターチェンジ」と言います。
ImM7 は、まさにトニックスケールをメロディック・マイナーモードに移行させた場合の代表と言うことができます。何しろメジャー7thにおいて3rdのみが♭しているのですから、強烈にメロディックマイナーモードのカラーが出ます。ゆえにポップスではなかなか扱いずらいですが、ジャズやモーダルな雰囲気音楽などでは効果的に使われる場合があります。
V7-ImM7, G7-CmM7
トニック・ナチュラルマイナーモードへの移行と考えて、VII♭もサブスティテュートしてm7thコードにすれば扱いやすいトニックコードになりますが、この場合はトニックI度をマイナーにしてしまうので、明確にマイナースケールへの転調、つまり本格的転調した感じになってきます。一時的転調では、あくまで元のキーのカラーを土台に曲の展開感を増強したり、別のスケールのカラーを取り入れたりしてメロディやコード進行にヴァリエーションをつくることが主眼にあるので、トニックキーを捨てて全く別のキーへ移行する場合は、本格的転調として扱われ、よりコーダルなアプローチになり、一時的転調におけるモーダルな雰囲気は失われます。
V7-i, G7-Cm7(本格的転調!?)