サブスティテュート- [III♭]


サブスティテュート- [III♭]diceworks

▪️III♭
マイナーモードへの「モーダル・インターチェンジ」

III♭はトニックマイナーのIIIです。よってメジャースケールにおいてサブスティテュートすれば、一時的にトニックを共有するマイナースケールに移行することになり、コード、コード進行もマイナースケールのモデルに沿ったものに変化します。

トニックメジャースケールにIII♭を導入したスケールは、メロディック・マイナースケールと同じですので、得られるコードもトニック・メロディック・マイナースケールと同様です。

iiibincmajor

メジャースケールとの違いは以下のコードです。

I-CmM7

III-E♭M7aug

IV-F7

VI-Am7(-5)

ここで少し「モード」という考え方について触れておきます。キーとダイアトニックコードを固定して、転調・非転調を明確に分けるのがコーダル・アプローチの考え方ですが、モードに着目したモーダル・アプローチでは、さまざまなスケール・カラーの効果的活用、およびスケール間の比較的自由な移行を許容し、いろいろな音楽的コンテクストやムードを作りだします。よってあまり転調部分を明確に仕分けしたり、ケーデンスを介した古典的な転調技術を用いたりする必要がなく、むしろそれを避けます。

とくにトニックを共有するスケールからのサブスティテュートについては、コーダル・アプローチの作曲においても、モーダル・アプローチにおける「モーダル・インターチェンジ」という視点が有効です。トニックを共有するスケールとは、つまりルートが同様でインターバルの異なるスケールたちのことです。メジャースケールとトニックを共有するスケールはマイナースケールだけではありません。マイナースケールだけでも3種類ありますが、他にもドリアン、リディアン、ミクソリディアンといった、インターバルの異なるさまざまな種類のスケールがあり、これらはひとつのメジャーコードから派生します。(モードについては、モーダルアプローチの項で詳しく記述します。)

上のコードは、トニック・メロディック・マイナースケールのダイアトニックコード群ですので、これらを使用することで、「トニック・メロディック・マイナーモード」への移行が可能になるとも言えるのです。よって、これらのコードを使用している箇所は、トニックマイナーへの一時的転調と考えてもよいのですが、トニックスケールをメジャーモード(イオニアン・モード)からメロディック・マイナーモードへずらしているだけ、とも考えることができます。このような、異なるモード間を行き来することを「モーダル・インターチェンジ」と言います。

ImM7 は、まさにトニックスケールをメロディック・マイナーモードに移行させた場合の代表と言うことができます。何しろメジャー7thにおいて3rdのみが♭しているのですから、強烈にメロディックマイナーモードのカラーが出ます。ゆえにポップスではなかなか扱いずらいですが、ジャズやモーダルな雰囲気音楽などでは効果的に使われる場合があります。

V7-ImM7, G7-CmM7

g7-cmm7

トニック・ナチュラルマイナーモードへの移行と考えて、VII♭もサブスティテュートしてm7thコードにすれば扱いやすいトニックコードになりますが、この場合はトニックI度をマイナーにしてしまうので、明確にマイナースケールへの転調、つまり本格的転調した感じになってきます。一時的転調では、あくまで元のキーのカラーを土台に曲の展開感を増強したり、別のスケールのカラーを取り入れたりしてメロディやコード進行にヴァリエーションをつくることが主眼にあるので、トニックキーを捨てて全く別のキーへ移行する場合は、本格的転調として扱われ、よりコーダルなアプローチになり、一時的転調におけるモーダルな雰囲気は失われます。

V7-i, G7-Cm7(本格的転調!?)

g7-cm7

 III♭M7augは、オリジナルスケールにおけるIIIと同じくトニックの代理として使うことができますが、やはりオーギュメントコードは少し扱いずらい響きでもありますので、マイナースケールからVII♭もサブスティテュートしてナチュラルトライアドまたはメジャー7thにするか、クリシェラインの一部として使うことができそうです。
 
V7-III♭M7, G7-E♭M7
IIIの場合は、トニックではありますが、I度よりもファジーな性格ですので、トニックとして解決しても強い本格的転調感を示すわけではなく、一時的転調の文脈においてモーダルな雰囲気を維持することが可能であると言えるでしょう。
g7-ebm7
 
Em7-E♭M7aug-GonD
これはベースがクリシェラインを形成するパターンです。 上声は維持したままベースだけが下行し、その経過としてIII♭を通ります。こういったさりげなさが、モーダルなアプローチの特徴です。
em7-ebm7aug-gond
 
IV7は、ドミナントコードですので4度上のVII♭へ解決できます。これはVII♭へのセカンダリードミナントと考えれば、この場合のIII♭はトニック・メロディックマイナーのIIIというよりもむしろVII♭メジャースケールからのサブスティテュート(IV)と考えられそうです。そうなると、近親スケール(i,IV,V,Vi)から離れてきますので、 それが目的ならば良いのですが、あくまでトニックマイナーからのサブスティテュートと考えるならば、 偽終止的進行としてVに進んだり、サブドミナントですのでI,II,IIIに進んでコード進行を続けることが考えられます。
 
IV7-V7, F7-G7
f7-g7
 
VIm7(-5)は、メロディックマイナーのVIですので、進行モデルに従って、VI-V-(I),VI-VII-(I)といった進行の他、トニックの代理としても使うことができます。
 
V7-VIm7(-5)
g7-amm7
 
 
 上記で紹介したサブスティテュートは、ひとつのコード上、あるいはコード進行の上で複数組み合わせて使われることも多いです。次からはその例を見ていきたいと思います。


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