⚫︎SUBSTITUE – サブスティテュート
ここではサブスティテュートの基本について考察します。
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基本的考え方
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⚫︎BASICS- 基本的考え方
サブスティテュートとは、「借りる」という意味です。一時的転調において多用する技法です。サブスティテュートは、状況によって主に次の2つの意味で解釈されることがあります。
A. 他のキーのダイアトニック・コードのいずれかをまるごと持ってきて「借用和音」として使う場合。
ex. Key=Cにおいて、Dm7-Gという進行がある。ここでGを一時的なトニックと見立て、Key=GのドミナントD7を借り、Dm7と置き換え、セカンダリードミナントとして用いる。つまりKey=Gから「D7」を「サブスティテュート」する。
B. 一時的転調として、他のキーやスケールからいずれかのデグリー・トーンを借りてきて、コードを変化させること。
ex. Key=Cにおいて、Dm7-Gという進行がある。ここでG-メジャースケールの第七音[F#]を借りて、Dm7をD7へと変化させ、Gのドミナントとして用いる。つまりG – メジャースケール(イオニアンモード)から第七音[F#]を「サブスティテュート」する。
同じように見えますが、微妙に異なります。Aは、「他のキーのダイアトニックコードをそのまま借りてくる」という考え方です。対してBは「他のスケールからある音を借りてきて、もとのキーのダイアトニック・コードを変化させる」という考え方です。理論的な正誤はともかく、どちらも受け入れられています。どちらかというと前者はコーダルなアプローチで、後者はモーダルなアプローチで支配的な意識だと言えます。
ここからは、基本的にBの考え方を意識して転調を考えてみたいと思います。他のスケール(モード)からいずれかの構成音を借りる、または一時的にそのスケールをコード上で使用し、その結果として、ダイアトニックコードを様々なヴァリエーションに変形させることで、転調を演出します。「他のスケールのダイアトニックコードを借用」ではなく(結果的にそう見えたとしても)、あくまで「サブスティテュートがもたらすトニックスケールのダイアトニックコードの変化」という視点で見ていきます。
最終的には、さまざまなスケールからのサブスティテュート・ノートを導入することにより、7つのダイアトニック・コードをどのように変化させることができるか、そのヴァリエーションを提示してみます(「トランスフォーメーション」を参照)。そして、それらをどのように音楽的なコンテクストで使用するのか、そのパターンも同時に見ていきましょう。
サブスティテュートによって転調を導入する目的にはどんなものがあるでしょうか。代表的なものをあげてみますと、
・ドミナントモーションをつくる(Dominant Motion)
・半音進行をつくる(Chromatic Motion)
・他のスケールのカラー、キャラクターを取り入れる(Scale/Modal Colour)
・シーケンスや平行移動などの転調しながら繰り返すパターンをつくる(Modulatory Sequence)
・(キーの異なる)セクション感の接続部分に取り入れる(Modulatory Transition)
・それまでのキーを捨て、完全に別のキーへ移る(本格的転調)(Real Modulation)
などがあります。ドミナントモーションや半音進行は曲の進行力を強めるのに役に立ちますし、他のスケールのカラーを取り入れることは、ダイアトニックコードだけでは味気ない進行にスパイスを加えたり、トニックキーとは異なる雰囲気を取り入れたりするのに便利です。インターバルを維持したまま一定のフレーズを繰り返す部分やセクション間の接続などテクニカルな部分では、異なるスケール間を行き来する転調の技術によってスムースな移行が可能になります。
サブスティテュート・ノートはそれが属するスケールのカラーやキャラクターを持っていますので、転調の利用目的によって、取り入れるサブスティテュート・ノートは選定されていきます。これらサブスティテュートを使用した転調の活用方法についても後述します。
では、メジャースケールにおけるサブスティテュートについて考察していきます。全体を通して、C-メジャースケールをトニックスケールする場合を例として考えていきます。
C-メジャースケール
・基本のサブスティテュート:平行調(Vi)、同主調(i)、下属調(IV)、属調(V)からのサブスティテュート
転調のオーソドックスなパターンは、トニックスケールと構成音が近いスケールから特定の音を借りる(サブスティテュートする)ことで、トニックキーのダイアトニックコードを変化させることです。特に近親関係にあるといわれる、平行調(Vi)、同主調(i)、下属調(IV)、属調(V)、の各スケールからの借用は、転調の初歩でありもっとも多用される方法です。まずはこれらの近しいスケールからのサブスティテュートを考えてみます。
平行調(Vi)、同主調(i)、下属調(IV)、属調(V)は、トニックスケールとの関係から、それぞれパラレル、トニックマイナー、サブドミナント、ドミナントのキーと呼ぶことができます。よってそれぞれ、リラティブマイナースケール、トニック(パラレル)マイナースケール、サブドミナントスケール、ドミナントスケールと呼ぶことができます。各スケールは特徴的なインターバルとダイアトニックコードを含みますので、スケール&ダイアトニックコードを含めて「IV度(サブドミナント)調」「~キー」なと呼ぶわけですが、この先では「リージョン」という特殊な名称で呼びます。詳しくは「リージョン」の項で述べましょう。
サブスティテュートは、これらそれぞれのデグリーのルートをトニック(I度)とした場合のスケールから行います。メジャーコードならばメジャースケール、マイナーコードならばマイナースケール(変化形含む)になります。メジャースケールのインターバル(R-M2-M3-P4-P5-M6-M7)、マイナースケールのインターバル(R-M2-m3-P4-P5-m6-m7)に従って、それぞれのルートからメジャースケール、マイナースケールを組み立てます。よって、IV-メジャースケール、V-メジャースケール、Vi-マイナースケール、i-マイナースケールが、最初にサブスティテュートを行うスケールの候補となります。
IV, F-メジャー
V, G-メジャー
平行短調であるViと同主短調であるiは、マイナースケールですので、ナチュラルマイナー、ハーモニックマイナー、メロディックマイナーの形があります。
Vi, A- ナチュラルマイナー
平行調のナチュラルマイナーは、トニックスケールと構成音が同じなので、サブスティテュートできるノートはありません。変化形の2つのスケールを見てみますと、半音上昇した6thと7thが、トニックスケールと異なるトーンであることがわかります。
A-ハーモニックマイナー
A-メロディックマイナー
同主短調i=トニックマイナーは、トニックメジャースケールをマイナースケールに変化させたものです。メジャースケールの3度、6度、7度をそれぞれフラットさせますと、トニックマイナースケールになります。
i, C-マイナー
トニックマイナーをハーモニックマイナー、メロディックマイナーへと変化させると、ほぼメジャースケールに近づいていきます。メロディックマイナーはトニックメジャースケールと3度の音が違うのみです。
C-ハーモニックマイナー
C-メロディックマイナー
これらのスケールより、トニックスケールと異なる部分をまとめてみますと、次のようになります。
Eb – トニックマイナーの3rd Degree
Ab – トニックマイナーの6th
Bb – トニックマイナーの7th、IV-メジャーの4th
F# – Vi-メロディックマイナーの6th、Vメジャーの7th
G#- Vi-ハーモニックマイナー、メロディックマイナーの7th
となります。これらが、トニックメジャースケールにおいてサブスティテュート・ノートとして使用可能な候補となります。これらを、トニックメジャースケールのデグリーと比較して置き換えると、それぞれ次のようになります。
III♭
VI♭
VII♭
IV#
V#
これら、比較的近しいスケールから導きだされた5つが、トニックメジャースケールにおいてサブスティテュート・ノートとして導入できる最初の候補です。これらをコード進行に取り入れることによって、一時的に借用元のスケールのカラーを提示することになり、その結果として、ナチュラル・ダイアトニックコードが変化(トランスフォーメーション)します。この現象を一般に「転調」と呼んでいるわけです。
では、これらのトーンを導入した結果、ダイアトニックコードはどのように変化するでしょうか。それぞれ見ていきます。
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