近親スケール以外のデグリーの名称


近親スケール以外のデグリーの名称diceworks

▪️近親スケール以外のデグリーの名称
 近親スケール(IV-Maj,V-Maj,VI-m,I-m)は、トニックスケールと構成音が近いため、サブスティテュート・ノートを導入してもトニックスケールの雰囲気からあまり離れません。よって一時的転調してもトニックスケールに戻ることが容易で頻繁に使いやすいのです。
 これらのスケールは、トニックスケールとの関係から、それぞれ次のように呼ぶことができます。
 
IV-サブドミナントスケール
V – ドミナントスケール
Vi – リラティブマイナースケール
i – トニック(パラレル)マイナースケール
 
「スケール」を「キー」と見ても構いません。その場合はそれぞれ、下属調、属調、平行短調、同主短調という、古典和声ではおなじみの名称になります。これらの近親スケール、キーは、このようにトニックスケールを中心とする関係での名称があるため、サブスティテュートする時に参照しやすいことも、使いやすさのひとつにあると思われます。
 
 ただし、この使いやすさ、トニックスケールとの近しさゆえに、良くも悪くも型にはまった、なじみのある進行になることから、通常は近親スケールからのサブスティテュートに加えて、もう少しだけ離れた(時にはかなり離れた)スケールからもサブスティテュートを導入したい欲求が生まれます。
 
 そんな欲求に対処するため、他のデグリー・スケールからサブスティテュートしたい場合のケースを見ていきましょう。すなわちII, III, VIIといったトニックスケールに直接由来しながらも共通音のより少ないスケールから、VI♭, II♭,あるいはIV度調のVIなどといった、トニックスケールから離れた(共通音のかなり少ない)スケールからノートを借りてきたい場合です。これは「リージョン」という考え方を使用した転調の技法として紹介しています。が、その事前知識として、トニックスケールに由来するすべてのデグリー・スケールの名称を確認しておきましょう。
 
・トニックスケールから派生するスケールの呼び方
 近親スケールの場合は、「サブドミナントスケール」のようなファンクションに基づいた名称から、トニックスケールとの関係と距離感がはっきりわかります。では、近親関係にあるスケール以外のスケールは、トニックスケールと関係をどう定義づけ、どう距離感を把握し、そしてどのように呼べばよいのでしょうか。
 
 あまり深く関係を考えなくとも、トニックスケールに由来するデグリー・スケールの場合は、単純にデグリーで呼ぶことが普通でしょう。「II度調」「IIIマイナースケール」などです。
 
 ただし、IVやVが「サブドミナント」「ドミナント」と言った、トニックスケール内でのファンクションを持っているように、他のデグリーもトニックスケール内でのそれぞれの位置関係に基づいた名称を持っています。各デグリーはその名称で呼ぶことも可能なのです。
 
I-トニック
II-ドリアン
III-ミディアント
IV-サブドミナント
V-ドミナント
VI-サブミディアント
VII- リーディング・トーン(マイナースケールではドミナント)
 
 
 これらの名称は、スケールの中での重要度や役割に基づいています。I,IV,Vは、そのスケールを決定づける重要なデグリーであるため、「トーナル・デグリー」と呼ぶ事ができます。対して、III,VIはファジーな性格であり、強くトーナリティを確立する安定感を持っていません。トーナル・デグリーのコードトーン(IIIはIの3rd, 5th, 7th)と見ることもできるし、他のスケールのトーナル・デグリーとも見ることができます。ポップスでIIIとVIを単純にトニックの代理としてまとめてしまうのは、このような流動的な特徴からだと思われます。その性格からこの2つは「モーダル・デグリー」と呼ぶことができます。
 IIは、IVの代理として使われることが多く、またコードトーンもIVと共有することから、これもIV,Vに次ぐトーナル・デグリーと呼ぶことができます。最後にVIIは、通常ドミナントートニックという動きの中でのメロディラインとして局所的に現れ、ハーモニー的にはVに吸収されてしまうため、スケールの中ではもっとも独立性の低い、他のデグリーに依存するノートとして扱われます。
 
 近親スケール以外のデグリー・スケールを把握する場合は、これらファンクションに基づいた名称を用いると便利です。「III度調」なら、「ミディアントスケール」と呼ぶ事ができます。
 
 ただ実際は、トニックスケールに根をもつI-VIIのスケールの場合、特にファンクションに基づいた名称を用いずともナンバーだけでファンクションや距離感がわかるので、「ミディアントスケール」のような呼び方を使うことはまれでしょう。これらの名称が役立つのは、トニックスケールから派生するI-VIIのスケールからさらに7つのダイアトニックコードを導きだし、トニックスケールに直接根を持たない遠いスケールおよびそのダイアトニックコード群に言及する場合です。
 
 例えばKey=Cにおける「A♭m」は、「IVメジャースケールのVI度調のトニックマイナーのIV」とか「D♭マイナースケールのIV」などと呼ぶより、「サブドミナントスケールから派生するサブミディアントスケールのIV(サブドミナント)」と呼ぶ方がその意味と距離感がはっきりつかめます。さらにここで各スケールを、次に紹介する「リージョン」という考えでくくれば、[SDsm] : IVというように記号化も容易ですので、分析もしやすくなります。 これは古典和声の分析でよく見かける「D♭-mol : IV」のような表記(IV度調)と似ていますが、リージョン名を用いればD♭マイナーというスケールがトニックスケールとどのような距離関係にあるのかをはっきり示すことができます。
 
 このようなそれぞれのデグリーの役割や特徴を理解した上で、それぞれのデグリーをナンバーで呼ぶか、名称で呼ぶか、状況に応じてわかりやすい方を選ぶとよいでしょう。たとえばサブドミナント、ドミナントは、ナンバーよりもトニックとの関係をはっきり示せるこれらの名称で、VIIはハーモニー的、ファンクション的な重要度が薄いので、単純にナンバーで指す方がわかりやすいと思います。次の「リージョン」からは、トニックスケールから離れたスケールについても扱うため、ファンクションに基づいた名称を主に使用していきます。


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