[SUBSTITUTE & TRANSFORMATIONS]サブスティテュート&トランスフォーメーション
ここでは応用的なサブスティテュートと、それによって得られる変化コード(トランスフォーメーション)のヴァリエーションを考察します。
TOPICS
色々なリージョンを用いたサブスティテュートの可能性を見てみます。近親リージョン(SD,D,sm,t)からの基本的なサブスティテュートについては既に述べました。次の4つです。
ここではそれ以外を含めたリージョンからのサブスティテュートについてまとめてみます。
下のリージョンチャート(詳しくはこちら)をご覧ください。これを見ながら、トニックリージョンに近いリージョンから順に見てみます。
[D]#IV
[SD]♭VII
[t]♭III,♭VI,♭VII
これらは既に紹介した通りです。以下、各リージョンのデグリーとトニックリージョンのデグリーをらし合わせて、対応するサブスティテュートを列挙します。
[v]♭VII,♭III
[sd]♭VI,♭II,♭III
[M]#V,#I,#II
[SM]#I,#IV,#V
[♭M]♭III,♭VI,♭VII
[♭m]♭III,♭V,♭VI,♭VII,♭II
[♭SM]♭VI,♭VII,♭II,♭III
[♭sm]♭VI,♭VII,♭I,♭II,♭III,♭IV,♭V
複数のリージョンに共通のサブスティテュート・ノートについては、どのリージョンからのサブスティテュートなのか、その定義はコード進行の流れでふさわしいものが自然と決まります。借用元のリージョンを常に意識することが大切です。
が、結局重複するものを除くと、代表的なサブスティテュート・ノートの派生元は[D][SD][sd]のリージョンに帰結させることができます。
[D]#IV(♭V)
[SD]♭VII
[sd]♭VI(#V),♭II(#I),♭III(#II),N(♭I)
これに[♭sm]における♭I,♭IVを加えると、すべてのサブスティテュート・ノートが網羅されます。
「基本のサブスティテュート」の項で紹介した、トニックマイナースケールからの「♭III,♭VI,♭VII」は[sd]と[SD]の中に、VI-メロディックスケールからの「#IV,#V」は[D]と[sd]の中に、同一のノートが存在します。よって、すべてのサブスティテュート・ノートは以上4つのリージョンの中に集約されているのです。
「基本のサブスティテュート」の項では、近親リージョンからのサブスティテュート・ノートを導入することによって得られるサブスティテュート・コードをひとつひとつ見ていきました。次からは、以上3つのリージョンの影響のもとに、トニックリージョンのダイアトニック・コードに起こる変化(トランスフォーメーション)をデグリーごとに見ていきます。
上記のように、すべてのサブスティテュート・ノート、つまりダイアトニック・デグリーに#,♭がついたすべてのノート
#I-#VII
および
♭I-♭VII
は、[D][SD][sd]、および[♭sm]のリージョンの中に存在します。
これらのリージョンから導入したサブスティテュート・ノートに応じて、トニックリージョンのナチュラル・ダイアトニック・デグリー・コードは様々な種類のコードに変化します。サブスティテュート・ノートによって変化したダイアトニック・コードを、「トランスフォーメーション」と呼びます。
これらのリージョンの影響のもとに起こるトランスフォーメーションを、I-VIIの各デグリーごとに見ていきます。II上に起こるものがもっとも広く使用されていますので、まずはIIにおける代表的なトランスフォーメーションを一通り見てみましょう。
[D]#IV
II7- D7
おなじみのドミナント7thです。ドミナントリージョンからIVを導入した結果起こります。
[sd]♭VI
IIm7(-5) – Dm7(-5)
サブドミナントマイナーの一種として知られます。サブドミナントマイナーリージョンからVIを導入した結果です。
[D]#IV and [sd]♭VI
II7(-5) – D7(-5)
ドミナント7th化に加えさらにコードトーンが変化する、2つのリージョンの影響を受けたトランスフォーメーションです。
[D]#IV and [sd]♭III
II7(♭9) – D7(♭9)
これもドミナント扱いですが、どちらかというとルートを省略してディミニッシュ7thコードとして扱うことの方が多いです。
[D]#IV and [sd]♭VI,♭III
II7(♭5,♭9) – D7(♭5,♭9)
上2つの組み合わせで、これもドミナントの変種です。そのままだとジャズなどで多用される「オルタードコード」の一種、ルートを省略すれば「裏コード」(トライトーンサブスティテュート)と同じ形になります。
[sd]♭II,♭VI
♭II(Neapolitan) – D♭
いわゆるナポリ和音です。古典的には3音をベースにおく第一転回形で使うことが多いですが、ルートポジションで使われることもないわけではありません。現代ポピュラーミュージックでは、♭VIを含むので、サブドミナントマイナーの一種として扱われることが多いです。ナポリなどといってもなじみが薄い、形がメジャーなのにサブドミナントマイナーと呼ぶなど、何かとイレギュラーなコードですが、割とよく使われます。
ダイアトニック・コードのうちマイナーコードは、すべてIIと同じやり方で、同一のトランスフォーメーションコードに変化させることができます。
次にIV上のトランスフォーメーションを見てみます。ダイアトニック・コード内のメジャーコードはすべてIVと同じ種類のトランスフォーメーションコードに変化させることができます。
[sd]♭III
IV7 – F7
[sd]♭VI,♭III
IVm7 – Fm7
おなじみのサブドミナントマイナーです。当然サブドミナントマイナーリージョンからサブスティテュートしています。
[sd]♭VI,♭III
IVm7(-5) – Fm7(-5)
上のサブドミナントマイナーの第5音Cを♭させてC♭(Bのエンハーモニックー異名同音)とすると、この形になります。
[sd]♭III
IV7(-5) – F7(-5)
上同様、C♭を用いるとドミナント♭5の形もつくれます。
[sd]♭VI and [D]♭V
IV7(♭9) – F7(♭9)
ルートを省略したAdim7での使用も可能です。
[sd]♭III and [D]♭V
IV7(♭5,♭9) – F7(♭5,♭9)
ルートを省略して裏コードの形C♭7としての使用も可能です。
[♭sm]♭IV
♭IV – F♭
ナポリタン形です。使い所は少ないです。
他のデグリーについても同様にトランスフォーメーションコードをつくれますが、説明が重複するので割愛します。IIをマイナー系コードの代表、IVをメジャー系コードの代表としてみれば、上記一覧だけでトランスフォーメーションコードの次の7つのモデルを導きだすことができます。
(丸数字はルートから見たコード度数です。)
①7
①m7(I,IV,V)
①m7(-5)
①7(-5)
M③dim7
♭⑤7(裏コード)
♭①(ナポリ)
I-VIIのすべてのデグリーで、このトランスフォーメーションコードのモデルを適用することができます。いくつかは実用的でないものもあります(ナポリの形はII以外では使いにくい)。
さらにまとめると、トランスフォーメーションコードは、コードの形、用法的に「ドミナント系」と「サブドミナントマイナー系」の2種類に分けることができます。導入するときは、どちらの機能を代理させるか意識するようにするとよいでしょう。
ドミナント7th系
ードミナント7th
ドミナント7th(♭5)
ディミニッシュ7th
(ハーフディミニッシュ)
裏コード
サブドミナントマイナー系
ーマイナー7th
ハーフディミニッシュ
(ディミニッシュ7th)
ナポリ
これらのトランスフォーメーション・コードの進行のさせ方は、基本的にはサブスティテュート元のリージョンにおける進行モデルに従います。大体パターンとしては、以下のような進行があります。
・ドミナント7th系は、4度進行か2度上行(偽終止的進行)
D7-G
D7-Em
F7-G
F7-Bb7-C
etc.
・サブドミナントマイナー系は、ドミナントコードへ進行 or 他のサブドミナントと連続
Dm7(-5)-G7
Ab-G7
Fm7-Dm7-G7
etc.
・裏コードの形は半音下降、ディミニッシュ7thの形は半音上行
Ab7-G7
Db7-C
Eb7-Dm7
F#dim7-G7
C#dim7-Dm7
G#dim-A7-Ab7-G7
etc.
・ナポリ和音の形は、半音下降(♭II-I)または増4度進行(♭II-V) させ、ルートまたは3rdで半音進行をつくる
DbonF – ConE
DbonF – G7
AbonC – GonB
AbonC – D7
Db – C
などです。もちろんポピュラーミュージックではもっと自由な進行が考えられます。
以上が手軽に使えるトランスフォーメーションのパターンです。本格的転調を多用せず、一時的転調感を適度に盛り込む場合、またはモーダルなコンテクストを作る場合では、ナチュラル・ダイアトニック・コードのみの進行に、上記モデルのトランスフォーメーションをさりげなく組み込むだけでバリエーションに富んだ進行を作ることができます。
また、上記の基本モデルに加えて、さらにテンションとしてルートから離れた様々なサブスティテュート・ノートを付加することで、いろいろなコードが作れます。
ex.
I-C7(♭9,#II)
このコードは次の2つのリージョンからサブスティテュートしています。
[SD]♭VII
and
[D]#IV and [sd]♭II
etc.
・複雑なトランスフォーメーション・コード上で使うスケール
ひとつのコード上で多くのリージョンからのサブスティテュート・ノートを導入する際は、そのコード上で使うリージョン・スケールの見極めで混乱しないようにしましょう。どれかひとつの支配的なリージョン・スケールを用いるか、オルタードスケールやディミニッシュスケールなどの複数のリージョンにまたがるノートを持つ特殊なスケールを用いるなど、工夫が必要です。このようなアプローチは、やはりジャズなどで多用されます。オルタードスケールやディミニッシュスケールはいろいろなリージョンに共通のノートを多数含むので、ドミナント7th上やディミニッシュ7th上で用いることで、複数のリージョン間での浮遊状態を作りだし、簡単に他のリージョンへ移行したり、トニックリージョンに戻ったりできるのです。
オルタード・スケール
Interval(R,m2,+2,M3,♭5,m6,m7)
Tension(♭9,#9,#11,♭13)
C,Db,D#,E,F#,Ab,Bb
C – [T]
Db from [sd]
D#(Eb) from [sd]
F# from [D]
Ab from [sd]
Bb from [SD] or [sd]
etc.
ディミニッシュスケール(全音ー半音)
(R,M2,m3,P4,#4,m6,M6,M7)
C,D,Eb,F,Gb,Ab, A,B
C – [T]
Eb from [sd]
F# from [D]
Ab from [sd]
etc.
ディミニッシュスケール(半音ー全音:コンビネーションオブディミニッシュ)
(R,m2,+2,M3,♭5,P5,M6,m7)
C,Db,D#,E,F#,G,A,Bb
C – [T]
Db from [sd]
D#(Eb) from [sd]
F# from [D]
Bb from [SD] or [sd]
etc.
ちなみにディミニッシュスケールというのはルートから全音ー半音と積んでいくか、半音ー全音と積んでいく2パターンがあり、前者を「ホール・ハーフ」後者を「ハーフ・ホール」ディミニッシュスケールと分けます。で、慣習的に後者は日本では「コンビネーションオブディミニッシュ」(コンディミ)と呼ばれていたり、アメリカではドミナント・ディミニッシュスケールと呼ばれていたり、ディミニッシュという名前がついているのにディミニッシュ上では使わなかったりと、なかなかややこしいことになっています。
dim7上にふさわしいのは前者(単なるディミニッシュ・スケール)、ドミナント上で使いやすいのは後者(ドミナント・ディミニッシュ・スケール)と覚えることをお勧めします。また、テンションの違いで覚えるのもよいでしょう。
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