FFⅦ ケット・シーのテーマ 楽曲分析 おしゃれブルースのカラクリ


FFⅦ ケット・シーのテーマ 楽曲分析 おしゃれブルースのカラクリdiceworks

cait sith

ゲーム音楽分析シリーズ・FINAL FANTASY編。(分析にはコードチャートテンプレートを使用するとわかりやすいです)

FFⅦより「ケット・シーのテーマ」です。

ネコです。

が、リモコンで操作している本体が別にいます。そいつは敵の会社のヤツ。

このネコはスパイロボットだったわけですね。

完全に脇役で出番も少ないんですが、このテーマ曲は非常に作曲の作法として参考になるので紹介したいと思います。

聴いてのとおり、この曲は明らかにブルースです。

ブルースにもさまざまありますが、現代ゲーム音楽らしくおしゃれなブルースとなっていますね。

このようなおしゃれブルースのカラクリがどうなっているのか分析します。

典型的なブルースの特徴がたくさん出ていながら、聴き飽きたふつうのブルースっぽく聴こえないという仕組みは何なのでしょう。

この曲にはブルースの文法の中でも、特に代表的な型が使われています。

・シャッフルのリズム

・ブルーノート(♭5)ほか、スケールアウトする音使いを多用

などです。

その一方で、典型的なブルースの曲構造である「12-Bar Blues」とは明らかに違った構造の曲展開です。

12-Bar Bluesとは、典型的なブルースのコード進行のパターンです。

Key=Cだったら、ダイアトニックコードの3コード(Ⅰ,Ⅳ,Ⅴ)のみで構成される

「C F C G F C G」というコードパターンを12小節のサイクルで繰り返します。

C×4 F×2 C×2 G×1 F×1 C×1 G×1

という風に、何小節弾くかもだいたい決まっています。

微妙な変化形の曲はいくつもありますが、たいていはこの型を変化させてバリエーションをつくっています。

むかしの典型的なブルースどまんなかの曲なんかは、もうひたすらこれ。飽きもせず(w)ひたすら同じ進行ばっかり弾き続けています。

が、プログレマニアの植松さんがそんな退屈な曲つくりをするわけがない。

8-16小節のまとまりで緊密にバランスよくメロディをまとめあげたポップなコード進行に、

微妙にテンションが絡んだり、Bメロもあったりと、シンプルながらも飽きさせない仕組みになっています。

加えてスウィングするリズムといい、オルガンのフレージングといい、雰囲気的にはジャズよりのブルースです。

このコード進行の多彩さが、ふつうのブルースで終わらない、この曲の良さの秘密だと思います。

ケット・シーはネコ型占いロボットというコンセプトで、しかも関西弁でしゃべるというキャラです。かわいいマスコットでギャンブル的な要素が入っています。ジャズ要素とブルース要素をあわせもったこの曲は、コミカルさとポップさと怪しさをあわせもった感じ、なんとなくもったいぶった感じ、微妙に腹立つ(w)音使いなどが、そういったコンセプトに非常に合っています。

まあ、分析してみれば「ジャズ的ブルース」みたいにフレーミングしちゃいますけど、それはあくまで結果的にそうなっただけの話だと思います。が、説明の都合上、このようにネーミングした方がわかりやすいので、そういうことにしておきますね。

では具体的に解剖しましょう。

Key=Fm(ブルーススケール) BPMは130くらい。

イントロ

Fmadd9 – on C | D♭7 – on A♭ | Fmadd9 – on C | D♭ |

Fmadd9 – on C | D♭7 – on A♭ | Fmadd9 – on C | D♭m6 |

(Fmadd9 – on C というのは、バッキングのコードは同じまま、ベースがCに動くということです)

イントロからもうばっちり「この曲はジャズ的なブルースだ」というのがわかります。

そう思わせる要素は、

・ライドが刻んでいる「チーチッキ、チーチッキ」というシャッフルのリズム

・オルガンのバッキングパターン

・スケールアウトした音が絡んだメロディ

・テンションが絡んだコード

などです。

明らかにスウィングしてますよね。このライドのパターンだけでも「ジャズだな」「ブルースだな」とはなりますが、

その他のパターンも、典型的なジャズ的ブルースの特徴です。

A

Fsus4(9) – Fm(onC) | D♭7(#11) D♭7onA♭ | Fm – on C | D♭ B♭m7(onA♭) |  

Fsus4(9) – Fm(onC) | D♭7(#11) D♭7onA♭ | Fm – on C | Fm – on C |

Fsus4(9) – Fm(onC) | D♭7(#11) D♭7onA♭ | Fm – E♭ |B♭7(9)onD D♭7 |

C | D♭7 | Fm Gm(-5) | Fm(onA♭) Gm7(-5) | Fmadd9 Gm7(-5) | C | →イントロを経由してBメロへ

9thや#11など、さりげなくテンションが隠れています。

Fsus4(9) – Fm(onC)

ここなどは、コード表記すると複雑ですが、Fmの三和音をずらしているだけです。sus4の4度と9thが短3度と1度にもどる動き。これが良い感じに聴こえます。その下でベースは定番の5度弾き。とてもかんたんです。

メロディもアウト音を積極的に絡める感じで、クセのある感じに聴こえます。

これがジャズっぽくてカッコいいのは確かにそうなんですが、このなんかくすぐったい感じをあんまりしつこくやってしまうと、(ウザッ・・・)となります。狙いすぎると逆につまらなく聴こえるのです。それが「なんか腹立つ(w)音使い」と最初に言ったわけです。

 また、Aメロは非常に論理的な構造になっています。

中心は

Fsus4(9) – Fm(onC) | D♭7(#11) D♭7onA♭

で提示されるテーマメロディ(クエスチョンーアンサー)。このフレーズを3回繰り返した後に、最後の6小節でフィルを入れてまとめ、半終止のCにもっていくわけです。(半終止とは、フレーズがドミナントで区切られること)

 | Fm(onA♭) Gm7(-5) | Fmadd9 Gm7(-5) |の部分は、

直前の| Fm Gm(-5) |と同じパターン(コードファンクションが同じ)を繰り返しているだけですので、機能的には同じ役割と考えられ、新しいフレーズとはカウントしないでもよいところです。

同じフレーズを繰り返してもったいぶらせる、Extension(引き伸ばし)という手法です。

ですので、この2小節分を引きますと、Aメロはちょうど16小節できれいにまとまっています。

あるセクションの構造として、偶数単位を中心に考える作曲方法は非常に論理的で、バランスよく聴こえます。

テーマメロディ(2-4小節)+テーマに対する応答(2-4小節)=「4 or 8小節」×2パターン=「8 or 16小節」

など

テーマ:応答=2:2という比率は、聴いてもらうフレーズライティングの王道です。

(まあ1:1と言ってもいいのですけど、2の倍数が多いですからね。もちろん作曲者の意図によって奇数比にすることもあります。)

この「8 or 16小節」単位で1セクションを構成するやり方は、クラシックからポップスまで共通する作曲の作法です。

もちろん12-Bar Blues も伝統の比率だから誰にも聴きやすい構成です。が、この曲はスケールはブルースでも、コード進行は伝統的なブルースを使わず、こういったポップス的な作法で書かれている。そのため、現代的で飽きのこない展開になっていると考えられます。

それが、この曲の聴きやすさの秘密のひとつ。

B

B♭7 E♭7 | B♭7onD E♭onB♭ | B♭- 7 | E♭onB♭ B♭|

A♭7 D♭7onF | A♭7onC D♭onA♭ | A♭ – 7 | D♭onA♭ A♭ |

B♭7 E♭7 | B♭7onD E♭onB♭ | B♭- 7 | E♭onB♭ B♭|

C B♭ | A♭7 (9) G | Cm – on G | Fm(onA♭) D♭ | Cm – on F | D♭ |→イントロへ

さてBメロです。

コテコテのブルースは、Bメロやサビなどはなく、単に12小節のパターンを繰り返しているだけというのが多いです。

または、そういう展開はあっても、コード進行は同じままで、音数が増えるとか、ドラムのリズムが細かくなるとか、ヴォーカルの音域が広がるなどで展開感を出している場合が多いです。

シンプルなロックンロールもそういうパターンが多いですよね。

しかしこの曲はBメロに展開します。それもAとはまったく違うパターンで。

この展開感が飽きさせない仕組み。ゲーム中はずっと聴き続けるBGMですから、少なくとも2セクションは異なる展開がある方がふさわしいのですね。

この部分も、テーマ:応答=2:2という形に沿っています。

前半4小節、

B♭7 E♭7 | B♭7onD E♭onB♭ | B♭- 7 | E♭onB♭ B♭|

がBメロのテーマメロディ。明らかに4小節でひとまとまりですね。そして次の4小節、

A♭7 D♭7onF | A♭7onC D♭onA♭ | A♭ – 7 | D♭onA♭ A♭ |

がその応答。ここでは単に、前半4小節全体を長2度上に転調させて繰り返しています。並行和音ですね。さらに次の4小節、

B♭7 E♭7 | B♭7onD E♭onB♭ | B♭- 7 | E♭onB♭ B♭|

は前半4小節とまったく同じ繰り返し。で、さいごに

C B♭ | A♭7 (9) G |

この部分でメロディをまとめています。つづいて、

Cm – on G | Fm(onA♭) D♭ | Cm – on F | D♭ |

ここはイントロと同パターン。上のコードとメロディはほとんど同じで、ベースだけ違っています。この後イントロに戻るので、曲の終わりと同時に始まりにもどりループする、その準備というわけです。

この曲から学べるおしゃれブルースの特徴、まとめますと

・ライドが刻んでいる「チーチッキ、チーチッキ」というシャッフルのリズム

・オルガンのバッキングパターン

・スケールアウトした音が絡んだメロディ

・テンションが絡んだコード

・ブルース進行でない(クラシカル/ポップス的な)テーマライティング→テーマメロディ(2-4小節)+テーマに対する応答(2-4小節)=「4 or 8小節」×2パターン=「8 or 16小節」

・曲展開のバリエーション(A,B,並行和音など)

です。

こういったフィーリングを取り入れると、もっと自分の曲がおもしろくなるでしょう。


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