INSTRUMENTATION


INSTRUMENTATIONdiceworks

instruments
[INSTRUMENTATIONS] 
 作曲された曲に対してどんな楽器を割り当てるかという問題は、「アレンジ」のカテゴリに属するテーマですが、アレンジには楽器の割り当て以外にも音の動かし方や楽曲構成、方向性や機能といった複雑な問題も含まれますので、ここでは具体的な楽器の使い方、楽器編成に注目して考察してみたいと思います。
 
CONTENTS
 
POPULAR MUSIC INSTRUMENTATIONS ポピュラーミュージック楽器編成の概要
 20世紀ー現代までに発達したポピュラーミュージックの特徴とは、すごくおおざっぱにいえば、19世紀までに西洋音楽を中心に培われた複雑豊富な音楽要素を高度に単純化、抽象化し、誰にでも親しみやすいようにシンプルに凝縮させた形式にあると言えます。理論、楽器編成、曲の長さ、楽譜上での表現など様々な領域において何らかの単純化が進んだのです。例えば、
 
・華麗なハーモニーと旋律的要素はコード進行とひとつのメインメロディに分割され、
・何人何十人もの奏者を必要とする楽器群は、リズム、ベース、コード、メロディの役割を担うものに絞られて小編成化が進み、
・一曲何十分もかかっていたのが数分にまで圧縮され、
・長大で余白の少ない楽譜は、メロディとコードシンボルのみか、それにいくつかの楽器を足して省略記号を多用しただけの見やすいものに・・・
 
なっていきました。
 
大雑把なイメージとしてわかりやすい例をあげますと、これが↓
 
こうなって
 
こうなって
 
 
こうなりました。
 
1000人-100人-10人・・・と小規模化していきますが、それで音楽がチープになったわけではありません。これはちょっと極端な例ですが、20世紀以降は、19世紀にあらゆる領域で極めつくされた西洋音楽の遺産を、いかに分解し、新たに解釈しなおすかという時代になっていったと言えるでしょう。
 
⭕️ [4RHYTHM]
 そのような単純化、抽象化、役割分担、シンプルさといった特徴をまさに体現するのが、ポップスの王道編成
「4RHYTHM」
です。ドラム、ベース、ギター、ピアノに、ヴォーカルやソロ楽器を加えたアンサンブルは、もっともシンプルで親しまれている楽器編成であると同時に、幅広いアレンジや拡張も可能な、人を選ばない万能の編成であると言えます。ですから、どんな人にとっても、音楽、作曲、アレンジに親しむためには最適な考察対象となるでしょう。一般的なイメージとしてのポピュラーミュージックの楽器編成は、この4リズムを下敷きに作られることが非常に多いことから、「ポップスの楽器編成」ー4リズムを中心とした編成、と捉えることは間違いではないと思います。では、4リズムを軸に考えられる楽器編成について見ていきたいと思います。
 
Basic – ベーシック
 ドラム・ギター・ベース・ピアノにヴォーカルやソロ楽器を加えただけの、もっともシンプルな構成です。何といってもビートルズが代表的ですが、ライヴ活動を主軸とするオーソドックスなバンド・ミュージックの基本的な編成となります。対して録音やDTMでの製作をメインとする場合は、この基本形態にいくつかの追加楽器を与えて、よりリッチなサウンドを構築することが多いです。
 4リズムの長所は、シンプルな編成と明快な役割分担により、アレンジの方向性が定まりやすくなることです。しかしこれは同時に短所ともいえ、楽器・音色・奏法がある程度固定されるため、音色の組み合わせやテクスチュアのパターンが絞られるということです。これは、ヴォーカルやソロ楽器によるメロディを主役とする音楽では、他の楽器は主役のサポートに徹する方がよいため、良いことなのでですが、楽器の個性や音色の組み合わせの多様さが求められるインストゥルメンタルのアレンジとしては、少し物足りなくなります。ギターはエフェクターによって様々な音色を作り出せますが、通常奏者は1−2人であり、ある程度パターン化もされるため、より豊富な音色のヴァリエーションを求める場合は、やはり他の楽器群を追加する必要が出てきます。
 
Basic + Strings – ストリングス
 コントラバスを除くストリングスセクション(ヴァイオリン1&2、ヴィオラ、チェロ)を加えると、アレンジの幅が広がり様々なジャンルに対応できます。特にバラッドにはストリングスによるハーモニーやメロディのサポートが必須と言えるほど欠かせない存在となることが多く、拡張というよりはほとんどベーシックな楽器編成のひとつとしてみなされています。
“巡る思い”『アトリエ トトリ』
 
Basic + Brass, Winds – ブラス、ウィンド
ビッグバンドやジャズ、ファンク、フュージョンなどのジャンルに多い形態です。
 
Basic + Orchestral Instruments – オーケストラ
 4リズムのストリングス、ブラス、ウィンドセクションをバランスよく取り入れたスタイルです。4リズムの明快なアレンジに加え、オーケストラサウンドの組み合わせによる多様な音色のバリエーションが作り出せます。多くの楽器を足す分、ギター、ピアノが不要な場合も多いため、ドラムとベースだけ用いる場合もあります。
 
“GOGO TOTORI” -『アトリエ トトリ』
“TRY” –  『アトリエ トトリ』
 
Basic + Synth – シンセサイザー
 シンセサイザーは、各楽器のサポートや音色の追加などの目的で、特にDTMで欠かせない存在となっています。デジタルなアレンジや、プログレッシブ・ロックのような非現実音による世界観の構築を目指す場合に最適です。テクノやハウスにおいては4リズム自体の役割もシンセサイザーに分担させ、生楽器では表現できない独特の音色、奏法などをつくりあげます。
 
4 Rhythm Adaptation to Other Instrumentation – ポピュラーアレンジの汎用性
 4リズムは、ドラム・ベース・ギター・ピアノの基本4楽器を骨格として扱うことが重要なアレンジといえますが、これら4つの楽器を使っていなくとも、同じ役割を果たす代わりの楽器があれば、それはポピュラー・4リズムアレンジと言えます。つまり、4リズムというのは、「オーケストラアレンジ」や「シンセアレンジ」が楽器の種類をある程度厳密に指定するのとは違い、役割を指定しているといったほうがいいでしょう。役割とはすなわちリズム、ベース、コード&メロディです。
 たとえば使われている楽器が菅弦楽器のみだとしても、各セクションごとの役割をほとんどすっかりこの4つに固定してしまって、厳密な和声や対位法やオーケストレーションのない(ある程度はあったとしても)、コード進行とメロディにフォーカスした、完全にポピュラーミュージックの作法で書かれた曲は、クラシカルにはきこえず、現代ポップスのように感じられます。ただし音色と響きだけは上品でリッチなオーケストラサウンドが得られることになります。「オーケストラサウンド」ではあっても「オーケストラアレンジ」言えるかどうかは「?」というわけです。このように、4リズム以外の楽器で、4リズム的作法を模倣してポップスらしい楽曲に仕上げることもできます。それほど4リズムを利用したポップスの作法は万能というわけです。
以上のように、4リズムは様々な方向性のアレンジを考える上での軸となります。どんな楽器で拡張するにしても、4リズムの作法によるアレンジを心がければ、ポップスらしい楽曲に仕上げることが可能になります。小節ごとにコードが進行し、2拍4拍にアクセントがあり、メロディがA-B-Cと展開し・・・という誰にも親しまれている構成であれば、どんな楽器を使っていてもポップスに聞こえてしまうということになります。逆に、ポップスらしいアレンジから離れ、より古典的、伝統的なアレンジが必要な場合は、各楽器やジャンルごとに特徴的なアレンジの作法を覚える必要があるでしょう。現代ポップスに浸りきった我々が4リズムのパターンから完全に自由になることは難しいと思いますが、それでもある程度伝統と作法を学ぶことによって、専門的なアレンジに近づくことは可能だと思います。
 
[ORCHESTRAL]
 上述のとおり、菅弦楽器を用いればそれだけで「オーケストラアレンジ」というわけではありませんが、菅弦楽器群の音色とその組み合わせ、奏法、響き、などを理解し、4リズムを応用した形でアレンジすれば、ポップスながらもオーケストラらしい雰囲気を作り出すことは可能です。
 
CHAMBER OR SMALL ENSEMBLE
少人数編成で、個々の楽器のキャラクターを生かしたコンパクトなアレンジです。細かい音の動きや表情にヴァリエーションをつけることが可能です。
 
 “To Our Surprise”, Yoko Shimomura – KINGDOM HEARTS
 
LARGER ENSEMBLE
全ての菅弦楽器群を想定した大編成のアレンジです。統一感やダイナミックな響きが特徴的です。
 
“The 13th Reflection”, Yoko Shimomura – KINGDOM HEARTS 2
 “Sinister Sundown”, Yoko Shimomura – KINGDOM HEARTS 2
“March in C”, Masashi Hamauzu – UNLIMITED SaGa