FFⅦ 飛空艇ハイウィンド 楽曲解説 複雑そうでも基本は繰り返し


FFⅦ 飛空艇ハイウィンド 楽曲解説 複雑そうでも基本は繰り返しdiceworks

airship

ゲーム音楽分析シリーズ・FINAL FANTASY編。(分析にはコードチャートテンプレートを使用するとわかりやすいです)

FFⅦより「空駆けるハイウィンド」です。

飛空艇に乗っているときに流れる曲です。

飛空艇に乗って世界中を飛び回るのはFFシリーズの醍醐味の一つです。

ゲームをやってて一番、少年たちの胸に冒険をしている感が強まるところ。

そのワクワク感を高ぶらせるのに欠かせないのが飛空艇の音楽です。

FFの飛空艇は音楽とセットと言っても過言ではない。シリーズによっては飛空艇はただの乗り物でなくストーリーと深く関わっていたりして、名前も役割も異なるため、音楽の雰囲気も異なっています。

とくにFFⅥの飛空艇ソング「仲間を求めて」は、曲名・曲調・飛空艇登場のエピソードと、そこから一気に前進するストーリー展開が合わさって神がかり的なドラマを演出しています。Ⅵではこの曲が強烈に記憶に残っている。当時多くのプレイヤーが涙し、今でもイントロを聴くだけで目頭が熱くなるファンも多い、ゲーム史に残る超名曲です。

FFⅨでは飛空艇が2つあり、後半はヒロインの故郷を破壊した敵の殺戮飛行兵器を奪って飛空艇として使うことになるというストーリー設定で、「嫌な思い出があってのりたくないのにな・・・」みたいな感情がつきまといます。だからあえて心躍るような音楽はつけられずに、寂しげなフィールド曲のままです。

対してFFⅦの飛空艇の曲は、それらとは違いオーソドックスな飛空艇曲です。ゲーム内の設定としては、仲間のシド・ハイウィンドの所有する飛空艇ということで一応ストーリーにも絡んでますけど、まあそれくらいですね。だから、楽曲の魅力がたいしてストーリー依存というわけではないので、純粋に音楽的な部分で良さを分析しやすいと思います。

ではオペレーション(w)を始めます。

BPMは130くらい。

Keyは、転調しまくるのでひとつに定義はしにくいですが、テーマメロディのあるAメロがD♭なので、とりあえずD♭ということに。この曲はFFⅦメインテーマ(フィールド曲)と同じメロディを使ったアレンジバージョンで、たしかそっちの曲もKeyはD♭だったと思います。

コードを見る前に、数回通して聴いて、全体的な特徴を掴んでみましょう。

・オーケストラ曲である

・転調が多い

・高速アルペジオの多用

という感じですね。

息の長いメロディとハーモニーを担うブラスが主体となって勇壮なイメージを演出しています。

イントロのメロディはストリングスですが、Aメロからはブラスにメロディを交代して、それからは全体のハーモニーを支える役割に。

また、やわらかいクラリネットの奏でる軽やかな高速アルペジオが、失踪感と空飛んでいる感を作りだしています。

リズムはティンパニとスネア&シンバルというシンプルな構成。パーカッションなどはなし。

これらの音色の組み合わせは、ぐいぐいと前進するドライブ感のある曲にぴったりです。

ではコードです。

Intro

A | G | F | A♭|

イントロはコードチェンジというより、一小節ごとにメジャースケールをパラレルに転調していく感じです。メロディも前半2小節と後半2小節でほぼ同じパターンを繰り返すので、並行和音的な構成です。

クラリネットの高速アルペジオは、コードトーン「1st,2nd,M3rd,P5」を繰り返しながら上昇していくパターン。

このアルペジオのパターンを維持したまま、A→G→FとM2ずつスケールが下降していき、4小節目はFからA♭へ短3度上昇。A♭はD♭のドミナントであり、そのままAメロへ突き進みます。

冒頭から壮大な冒険のテーマを予感させるイントロです。まさに「空飛ぶで~」というワクワク感満点。プロペラやエンジン音が聞こえてきそうな雰囲気です。風を切って上空を駆けるイメージが自然と浮かぶ。

A Key=D♭

D♭ | B♭m | D♭ | A B | 

D♭ | B♭m | D♭ | A B | Fm | B♭ | B | Cm A♭7 |

D♭ | B♭m | D♭ | A B | 

D♭ | B♭m | D♭ | G♭add9 G♭ |

ここが曲のメイン部分です。FFⅦのメインテーマメロディをブラスで壮大に演奏するのが気持ちいい。

見ての通り、

D♭ | B♭m | D♭ | A B | 

というテーマメロディをの繰り返しています。

2サイクル目の後半、Fm | B♭ | B | Cm A♭7 |の部分は、転調しながらメロディを少し延長させ、寄り道している感じ。

A♭7を経てテーマメロディの繰り返しにもどり、その繰り返しの最後で、BmのドミナントであるG♭(F#)にコードチェンジし、BメロのBmに突っ込みます。

B key = Bm

Bm – on C | – on D – Bm | F# +F# |

Bm(onD) – on E | – on F# – on D | A |

C#m – on D# | – on E – C#m | G#m + G#m |

B – on C# | – on D# – B |

| F# +F# |は2小節分F#が続くという意味です。

ここも基本的に

Bm – on C | – on D – Bm | F# +F# |

のテーマメロディ部分の繰り返し。それも、このテーマメロディはAメロのテーマメロディ、つまりFFⅦメインテーマのメロディを転回(インバーション)させたものです。よく聴けば、譜面を見なくとも、明らかに譜割は同じままで音符の進行方向が上下逆になっています。

AメロのテーマメロディがAとするならば、このメロディはA’です。

Bm(onD) – on E | – on F# – on D | A |

では、ベースだけ3度上昇させ、最後をAに変えただけですね。

C#m – on D# | – on E – C#m | G#m + G#m |

ここも並行和音的。メロディの形とコード進行はテーマメロディ部とほぼ同じで、単に長2度上へパラレルに転調しただけ並行和音です。ただ3-4小節目が、転調前はF、つまりメジャードミナント(メロディック/ハーモニックマイナースケール)だったのに対し、転調後はナチュラルマイナードミナントのG#mになっています。並行和音は、転調前と転調後のコードタイプをまったく同じする手法ですので、ここでは厳密には並行和音と言えないかもしれませんが、実際はこのように少し変化をつけることもありますよね。限りなく、並行和音的といっておきますが、別に並行和音と言っても間違いではないでしょう。そこらへんはあまり気にしないことです。

ちなみにこの部分、スケールだけ見ると前半部はBm,後半分はBとなっています。つまり同主調へ転調してます。

並行和音では、コードの転調に合わせてとうぜんスケールも転調しますが、その度数を合わせる必要はありません。スケールは、コードに合っていればOKです。つまり、コード進行を長2度上昇させたからといって、スケールも一緒に長2度上昇させる必要は必ずしもないのです。

Bm – on C | – on D – Bm | F# +F# |

から

C#m – on D# | – on E – C#m | G#m + G#m |

へは、コード進行はぴったり長2度パラレルに上昇していますが、スケールは

BmからB、つまり同主調と分析することができます。その根拠は、この次に

B – on C# | – on D# – B |

です。ここでテーマメロディは終わり、この後に連続転調部分に突入するので、終結部にトニックをもってきていると考えると自然だからです。

この終結部は、これまでの流れからするとテーマメロディに2小節足りません。それまでのメロディのまとまりは4小節できていたのに、最後だけ2小節、つまり全体の比率が奇数比となり、不安定な状態。どいういうことかというと、その状態のまま次の展開部、連続転調部に突っ込みたいという意図があるからです。奇数比の不安定感は、ドライブ感を生みますからね。

連続転調部

F# Bm Dm A C#m A#m B

ここもイントロと仕組みは似ています。コードタイプや各楽器の音の動きは変えないまま、2小節ごとにスケールだけパラレルに転調していく。並行和音です。ただ、メジャースケールとマイナースケールが混ざっているところにドラマティックな展開感があります。メジャー→マイナー→マイナー→メジャー→マイナー→マイナー→メジャーという動き。よってここも完全に並行和音というわけではなく、限りなく並行和音的なパラレルスケールチェンジ、ということにしときますか。

Back to A 部

A♭のみ

最後はそのまんま、Aに戻る部分です。キメと言ってもよいでしょう。AメロのはじめD♭のドミナントコードA♭のコードトーンを使い、全楽器でのユニゾン、3連系のリズムで音をキメ動かしてごり押ししています。じつに豪快です。

さて、壮大で複雑そうに聴こえる曲ですが、こうして分析してみると、難しそうに見えてじつは仕組みはシンプルであることがわかります。

ポイントは、繰り返し。要するに、テーマとなるメロディなり音形なりコード進行パターンなりを定めたら、あとは形を維持したまま、あるいは少し変化させて、ひたすら並行和音的に転調して繰り返していくだけなんです。

繰り返しは音楽の基本です。複雑なように聴こえる曲でも、分解してみると、実は同じことの繰り返しであることが多い。Aというアイデアを少し変えてA’, A”と衣装チェンジしていくだけで、新しい要素ってのはほとんどないのです。

この曲の壮大な展開感の秘密も、転調しまくるところにあると思います。音色や奏法という雰囲気つくりの基本的な前提条件を満たしたら、あとはコードマジック。どうやって音を配置するかですが、曲のKeyを厳密に固定しない、並行和音的転調を多用した繰り返しの多さが、変化に富んだイメージの形成、あちこちに広がっていく感じ、世界中を飛び回っていく高揚感と不動感を演出していると考えられます。

基本は、同じことの繰り返し。テーマはシンプルに。

聴かせる論理的な作曲には欠かせない心がけです。


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