「イトケン 鼻血」とは? 決戦!サルーイン 楽曲解説 ストリングスの高速アルペジオ


「イトケン 鼻血」とは? 決戦!サルーイン 楽曲解説 ストリングスの高速アルペジオdiceworkssaruin

 

 

ゲーム音楽分析シリーズ・Saga Frontier編。(分析にはコードチャートテンプレートを使用するとわかりやすいです)

ロマンシング サガより「決戦!サルーイン」。ラスボス戦の熱い曲です。直前には「邪神復活」という別のBGMが鳴っていて、それと連続する感じで始まります。

この曲は伊藤賢治さんお得意のシリアスなバトル曲ですね。本人はバトル曲苦手と公言しておられますが・・・

イトケンさんのバトル曲はかっこいいわりに使われているコードや構成は驚くほどあっさりシンプルだったりします。バトルなのでハードロックやメタル形式での、定番コード進行のみやリズムおしの展開ができるので、打ち込む情報はなるべくシンプルに、ただ聴かせる構造を使ってパワーのある曲を作っています。

サントラの手記に書いてありますが、制作当時は殺人的なスケジュールだったらしいですから、素早く作曲するためにも、あまり凝った曲は狙わず、シンプルにゴリ押しできるロック系メタル系の曲になっていったのでしょう。

使用音色も必要なもののみ。メロディのトランペット、ストリングス、ベース、ドラムという最小限の構成です。

BPMは155くらい。Key=Cm。

この曲はストリングスの高速アルペジオがセクションの接続部分で良い感じに緊張感を演出していますので注目です。

イントロ

Cm×4bar

C | C7 | Fm | D | G Fm | E♭M7 Dm(-5)-G7 |

タムのフィルではじまるという意外性のあるイントロ。3度ハモリの順次進行でスケールを上昇していき一気にテンションを煽ります。「キター!!!!ゴゴゴゴゴゴ!!!!」って感じですね。サルーインの雄叫びとか地響きでも聞こえてきそうです。

Cmのトニックペダルが4小節続いた後は、ストリングスが高速アルペジオで猛烈に駆け抜け、戦いのテーマに向かって突っ込みます。おきまりのシンコペーションでのカデンツのコンボを決めて、いざテーマメロディへ。

Aメロ

Cm | Cm | A♭ | A♭ | B♭ | Gm | A♭ | G |

Cm | Cm | B♭ | Cm | D♭mM7 Bm(-5) | Cm | Cm |

一拍目からトランペットが威勢よく「パーパッパー!」ときますね。あーもういよいよ最後の戦いなんだ・・・って感じになって、ぐっときてしまうような胸の熱さと真剣さを味わいながら、コントローラを握る手にも力が入ります。

ここ、「ダダダダダダドド」とベースがシンプルに8分を刻んでいく感じはちょっとFFっぽさもありますね。

ストリングスはメロディに寄り添うようにスケールに沿って動いているので、全ての拍点で細かく縦のハーモニーを見ていくと、CmからF/Cになっていたり、Dm(-5)/A♭からA♭にもどったりしています。

「パーパッパー」というテーマメロディを2ループしてきっちり16小節、トニックCmで終わる。無駄なく論理的ですっきりした構造です。しめのCm部分はまたストリングス高速アルペジオの風が煽ってきます。

Bメロ

A | A♭ | Cm | Cm | Dm(-5) | G | Cm B♭/D | E♭ ConE |

A | A♭ | Cm | Cm | D-G7 | C-F7 | B♭-E♭M7onD | A♭ Fm |

そして、タメ(Bメロを引き延ばす部分。なんと呼んでもいいが、タメてるのでタメと呼ぶ)

G | A♭ | G | A♭| G-Fm/A♭ | G

さてBメロです。

ベースは定番の「ブッペッブッペッ!」というオクターブ奏法でリズムの少なさを補います。

メロディの動きにも変化。Aメロが一拍目から息の長いメロディを吹きかましてきおったのに対して、Bメロでは一拍目から休符をとりいれて息継ぎさせるような動きで語りかけてくる感じ。「こ~い~つ~たおせば~おわりッ、こ~れ~で~しごとも~おわりべ-ッドでやーすーめーるーぜー」とまるでイトケンさんが歌いかけているように思えます。

社内に缶詰にされ、家に帰れず、ろくに眠れず、風呂にも入れず骨がきしみ、終わった瞬間に植松伸夫さんと顔合わせた瞬間鼻血が止まらなくなり救急車で運ばれた(しかも外は嵐、すぐ2日後にレコーディング命令下るという殺人日程)というエピソードがあるイトケンさんの思いを想像しながら聴くと、非常に感慨深いです。詳しくは「イトケン 鼻血で検索するといっぱい出てきます。「き~み~がたおせばおわり、は~や~く~たおして~おくれ もーねたいぜーもーつらいぜーかーえりたいぜー ふーろにはいらせろー・・・」

Bメロ後半13-16には連続ツーファイブの動き。D-G7 | C-F7 | B♭…とメロディとベースが音型を維持したまま強進行に乗って前進していきます。

さいご、Bメロを引き延ばしたようなタメの部分では、メロディを長く伸ばしてベースが8分刻みでG-A♭の行き来を繰り返すステイ気味なテクスチャの上に、これまた高速アルペジオ(16分刻み)をぐるぐる回してテンションを維持します。最後はいつものシンコーペーションパターンで半終止し、イントロへもどってループ。おわりです。

「おわったーー!!!」というイトケンさんの叫びが聞こえるような気がしますね。まあそのエピソードはこのロマサガではなくプレステのサガフロンティアの時だったそうなのですが、それでもロマサガシリーズの時から死ぬほど過酷な思いで作曲をしていたというのはよく公言されていますからね。

楽曲には作曲者の心が現れると思います。同じSQUAREでも、植松伸夫さんがノリがよく遊び心満点で聴いていてわくわくするようなバトル曲をつくるのに、イトケンさんのバトル曲はもっとハードでシリアスでプレイヤーをハラハラ興奮させます。植松さんは応援してくれるけど、イトケンさんは焦らせる(笑)感じ。会社に監禁状態だった当時の過酷な心持が出ているのではないでしょうか。


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