[HARMONY BASICS]
ここではポピュラーミュージックにおけるハーモニーの基本要素についてまとめてみます。
1. 前提知識
2. ルート(デグリー)進行
3. 転調
4. リージョン
が主なトピックです。
TOPICS
1. 前提知識
1. 前提知識
–Diatonic Chord – ダイアトニック・コード
–古典的和声とポピュラーミュージックにおけるコード進行の違い
2. PATTERNS OF ROOT PROGRESSIONS – ルート(デグリー)進行
3. MODULATION – 転調
–SUBSTITUE – サブスティテュート
–近親スケールからのサブスティテュート・ノートを複数組み合わせる
–トランスフォーメーション・コード(サブスティテュート・コード)の活用方法
–近親スケール以外のデグリーの名称
4. REGIONS リージョン
–リージョンの種類、距離、記号化
–メジャー/マイナーのインターチェンジとインダイレクトリージョン
–リージョンチャート
–リージョナル・アプローチの実践
–リージョンを用いたハーモニー、コード分析
–作曲時に用いるリージョナル・アプローチ
–様々なサブスティテュートの可能性
ポピュラーミュージック作曲に必要な大前提の知識です。様々な書籍、サイトで詳しく解説されています。このサイトでは特別変わった捉え方をしている部分はありません。メジャースケール、3つのマイナースケール(ナチュラル・マイナー、ハーモニック・マイナー、メロディック・マイナー)から派生するI-VIIのダイアトニック・コード、およびそのファンクションについての基礎知識があることが前提となります。基本的な考察はLEARN-DIATONIC CHORDSをご覧ください。
古典和声では、メロディ、ハーモニー、ベースは一体となって和音を作っているため、美しい和声進行をつくるために、構成音の数や声部の進行に制約がありますが、ポップスでは、メロディ、ハーモニー、ベースが独立した要素として切り離されているため、コード構成音や各音の動きは制約されないのです(もちろん音がぶつからないように注意はします)。以上の違いを押さえておくと、この先の解説がわかりやすくなると思います。
(以下からの解説はポピュラー・コード理論というより古典和声の範疇になりますが、ルート進行やケーデンスなど共通する部分もありますし、ストリングスなどヴォイスリーディングが必要なアレンジの際に役に立ちますので知っておいて損はありません。)
ルート進行のパターンについて記述しています。
転調には、一時的転調と本格的転調があります。一時的転調では、トニックキーのダイアトニックコードを用いた進行の中に、一時的に他のキーからコードを借りる(サブスティテュート)ことによって、ダイアトニックコードだけで作られたコード進行に変化をつけます。本格的転調では、トニックキーと転調先のキーを共通のコード(ピボットコード)によって接続し、完全に別のキーに移行します。
転調のテクニックとしては、セカンダリードミナント、ツーファイヴ分割、裏コード、サブドミナントマイナー、偽終止転調、強進行転調、半音下降転調、ピボットコード接続、トニック終止接続、ドミナント接続、ピボットコード接続、ディミニッシュ接続、突然転調といった定型的な技法があり、現在発売されている種々の作曲関連の書籍をあたればほぼ網羅できます。それらは半ばテンプレート化、パターン化されており、よく考えずともやり方を覚れば使えるようになるため、覚えても慣れないうちは、調子に乗って乱用することもあります。また、パターン化しすぎると個々の方法が別個の必殺技のように捉えられ、それぞれの転調方法の目的や、それらがどう関係しているのかということに気がつかなかったり、単純な暗記によって手持ちカードを水増ししようとしたりするアプローチに傾きがちです。使えれば別に悪いことではないと思いますが、ここからの記述ではなるべくそういったことは避けたいので、全てのテクニックを奥義リストのように解説するのではなく、共通の基本要素に絞って考察してみます。それによって、テクニックを暗記ではなく、目的によって導き出せるようにしたいと思います。それは、
・サブスティテュート
・リージョン
・トランスフォーメーション
の3つです。
トニックスケール外から特定のノートを借りてくることを「サブスティテュート」といいます。
使用頻度の高い基本的なサブスティテュート・ノートは次の4つです。
▪️IV#
▪️V#
▪️VI♭
▪️III♭
上で紹介した近親スケールからのサブスティテュート・ノートと、それによって得られるトランスフォーメーション・コード(サブスティテュート・コード)をまとめると以下のようになります。
From V-メジャースケール : IV#
II-D7
IV#-F#m7(-5)
V-GM7
VII-Bm7
From IV-メジャースケール : VII♭
I-C7
III-Em7(-5)
V-Gm7
VII-B♭M7
From VI- マイナースケール : (IV#), V#
I-CM7aug
III-E7
V-G#dim7
VI-AmM7
(IV#はメロディック・マイナースケール上行形のVIなので、導入するときはV#も一緒にサブスティテュートする。よってII-D7, IV-F#m7(-5), V-G#m7(-5)が得られる。)
From I-マイナースケール : III♭, VI♭, VII♭
-VI♭
II-Dm7(-5)
IV-FmM7
VI-A♭M7aug
VII-Bdim7
-III♭
I-CmM7
III-E♭M7aug
IV-F7
VI-Am7(-5)
-VII♭
VII♭のみ導入する場合は、IV-メジャースケールからサブスティテュートした時と同じ。進行モデルだけ、I-マイナースケールのものに従う。
そして、これらの代表的な活用方法は以下のようにまとめることができます。
・基本的に、トランスフォーメーション・コードはサブスティテュート元スケールでの進行モデルに従って進行させる
・トランスフォーメーションしてもデグリー・ファンクションはあくまでトニックスケールでのファンクションのまま
・ドミナント7thの形(セカンダリードミナント or マイナースケールのVII)は、4度進行または偽終止的進行(2度上行)が有効
・m7(-5)の形は、ドミナント7(9)のルート省略形と考えて2度上行、またはトニック or サブドミナントの代理
・dim7の形は、ドミナント7(♭9)のルート省略形と考えて2度上行、またはサブドミナントの代理
・ドミナント7th以外の形のものは、トニックやサブドミナントの代理として有効
などが代表的な活用方法です。もちろん他の可能性も考えられますので、いろいろ試してみるとよいでしょう。
これらは後で紹介する「トランスフォーメーション」の項でも共通するルールです。
近親スケールの派生元デグリー以外のデグリーにも名称がありますので、確認しておきましょう。
II-ドリアン
III-ミディアント
VI-サブミディアント
・転調、楽曲分析において、トニックスケールと他のスケールとの関係性を明確に把握するためのツール
転調において借用、介入するスケールはランダムに選ばれるわけではありません(そういう場合もありますが)。先に紹介したように、以下のような狙いや目的があって、特定のスケールを選びます。
・ドミナントモーションをつくる
・半音進行をつくる
・他のスケールのカラー、キャラクターを取り入れる
・シーケンスや平行移動などの転調しながら繰り返すパターンをつくる
・(キーの異なる)セクション感の接続部分に取り入れる
・それまでのキーを捨て、完全に別のキーへ移る(本格的転調)
こういった目的を遂行するためには、用いるトニック外スケールとトニックスケールとの、関係性と距離感を把握する必要があります。
トニックスケールに由来するI-VIIのデグリーは、VIIを除き、それぞれをルートとしたメジャー/マイナースケールを組み上げることによって、各ルートをトニックとしたダイアトニックコードを新たに導き出すことができます。転調の際は、そのようにしてトニックスケールとキーの異なるメジャー/マイナースケールおよびダイアトニックコードを参照することで、トニックスケールとの関係(共通音、共通コードの位置とファンクション、構成音の違いなど)を把握し、適切な転調パターンを考えます。
そういう時、導きだしたスケール、キー、ダイアトニックコード群などを、前述のように、「IV-メジャースケールからの借用」とか「Key=IIのハーモニックマイナーモードのVI」とか「III度調」とか「V度調のサブドミナント」とか呼ぶわけです。作曲時や楽曲のコード進行を分析する場合には、特にこういう呼び方を使って思考することが多くなります。
このようなナンバーやスケール、キーといった概念に依存する呼び方は、そのスケールとトニックスケールとの関係性を見るというよりは、そのスケールそのものを独立した、トニックスケールとは切り離されて独自に存在している別世界のように捉えがちです。
これは、近親スケールからあまり離れないスケールならば問題ないのですが、それから離れるほど、トニックスケールとの関係が把握しにくくなります。例えばKey=Cの場合のD♭マイナースケール(キー)などの、トニックスケールからかなり離れた(構成音の少ない)スケールからサブスティテュートしたい(楽曲分析の場合はそういう進行が使われているような)場合 、サブスティテュート元スケールを「II♭マイナースケール」と呼ぶのでは、慣れないうちはトニックスケールとの関係性がはっきりせず、適切な導入方法(転調の目的)が曖昧になり、ともすると単に意外な進行を狙うだけとか、強引にセカンダリードミナントを使って導入するとか、突然転調だとかに頼った解決方法、結論、目的、導入方法に走りかねません。
「II♭m」はトニックスケールに存在しないデグリー・スケールであり、かつ「マイナー」であり、近親スケール(IV,V,Vi,i)のダイアトニック・デグリーにも見当たりません。このようなスケールは、近親スケールからさらにメジャー・マイナー同士のインターチェンジを経て、トニックスケールに直接由来しないスケールまで飛んだところに存在しますが、ナンバーやキーといった概念だけでは、あまりに離れたスケールとトニックスケールとの関係を掴むことができないのです。そのため、一部のスケールはトニックスケールと独立して相容れない「別世界」のように感じられ、その断絶感が導入方法、分析方法をややこしくしてしまいます。
しかし、すべてのキー、スケールは繋がっています。どんなに離れていても、トニックスケールとの関係性がつかめれば、トニックスケールに導入した時の活用方法も導き出すことができます。そういった関係性を把握するための考え方が「リージョン」です。
リージョン Regionとは、「領域」という意味です。ここでは文字通り、トニックスケールに直接由来するデグリー・スケール群と、さらにそれらスケールから派生するの全てのスケールを、トニックスケールとの関係性によって(キー、スケール、度などの言葉に依存せず)名称づけ把握する考え方です。20世紀の作曲家アーノルド・シェーンベルク(Arnold Schoenberg)が著書「STRACTURAL FUNCTIONS OF HARMONY」の中で提示しました。ここから紹介するのは、本の中で紹介されているリージョンという考え方を、現代ポピュラーミュージック的作曲に役立つような視点でまとめたものです。
リージョンは、これまで「スケール」「キー」「調」などの名称を使って言及していた「トニックスケール以外の世界」を、トニックスケールとの関係性の輪に結びつけて包括的に把握するのに役立ちます。具体的には、トニックスケールにおけるデグリー・ファンクションの名称を応用、組み合わせて、他のスケールとの関係を把握します。
上で紹介した各デグリーの個別名称は次の通りでした。
I-トニック Tonic
II- ドリアン Dorian
III-ミディアント Mediant
IV-サブドミナント Subdominant
V-ドミナント Dominant
VI-サブミディアント Submediant
VII- リーディング・トーン Leading Tone
これらの名称がそのままリージョン名になります。例えば、トニックスケールのインターバル、デグリー、ダイアトニックコード群はすべて「トニックリージョン」に所属します。楽曲は、常にトニックリージョンを起点に、次のような「リージョナル・アプローチ」がセクションごとにバランスよく割り当てられることによって構成されているのです。
「リージョナル・アプローチ」
・ナチュラル・ダイアトニックな進行(トニックリージョンの提示、確立)
・他のリージョンからのサブスティテュート(一時転調的用法)
・他のリージョンへの移行(本格転調的用法)
・リージョン間の浮遊(モーダル・アプローチ)
リージョンの基本的な考え方には次のようなものがあります。
リージョンの考え方を理解したら、具体的な使い方を見てみます。主に自分で作曲する場合と、分析をする場合(自分が感覚的に作ったコード進行を後で分析する場合も含む)でのアプローチがあります。